こどもの頃からあたってきた
どれだけの数のストーブを思い出せるか
試してみたりする
母方の祖父の家に冬に行った時の
居間兼台所のストーブは忘れがたい
部屋が7つある大きな家で
廊下も長く広かったのに
ストーブのあるところは居間兼台所だけで
寒い朝みなが起き出る頃になると
7人ほどが暖を取りに集まってくる
祖母ははやく起きていて
みそ汁など朝食を作っているところへ
わあ寒寒…などと言いながら
みんなが集まってくる
廊下を隔てる引き戸は大きくて重いのに
廊下の冷気が入り込まないように
出入りのたびに誰もがすぐに締める
祖父も叔父も叔母たちも仕事に出るので
テレビの朝のニュースを見たり
新聞をめくったり折ったりしながら
あれこれ話したりもしながら
せわしなく食べて飲んでつまんで
食べ終わったらバス停の時刻を指でたどって
10分や15分後にはもう出かけて行く
まだ幼稚園にも行っていないぼくは
ひとり出かけていくたびに
寒い玄関まで震えながら見送りに行き
居間兼台所に戻ってきて重い戸を閉めては
また次に出かける人を見送りに出て行く
みんなが出勤してしまうと寂しくなって
寄ってくる白猫チロのシッポを引っぱったりする
チロはワアッと体を曲げて飛びかかってきて
服の上からぼくの腕に爪を立てたりする
チロが廊下に出て行ってしまうと
いよいよ手持ち無沙汰になって
ストーブにお尻を向けて温まりながら
始まったばかりのモーニングショーのおしゃべりを
格別興味も持てないまま眺めてみたりする
人がいっぱいいて
ワアッと集まったり散っていったり
そんな部屋のあんなストーブというものもあって
思い出せばいつでも今でも目の前に燃えている
もちろん今はなくなってしまっていて
みんなが死んでしまったわけではないものの
あのひとたちがあのように集まることももうない
白猫チロのシッポももう握れないし引っぱれない
どう努力しようとどう段取りをつけようと
もう二度とああいう朝のせわしなさは戻らない
今でも思い出せるかどうか
ぼくひとりが必死に試してみるほかには
もう思い出のなかにさえ蘇ってはこない
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