2021年1月21日木曜日

明治天皇のなんでもない日常の歌をいくつか

 

 

毎年のように11月から

12月にかけては

日本全国に出まわる商品の

来年度の制作に忙殺されることになる

いろいろやって来ている

賃仕事のうちの

ひとつ

 

ただでさえ

忙しいというのに

そこに入れる

365

短歌や俳句を選ぶのに

もう

昼も夜もなくなる

一日に一冊の

古典の厚い和歌集の全ページに

目を通してしまうなどは

よくあること

肩は凝り

目をしょぼつかせながら

それでも

なんという

名作の堆積が日本語には

存在しているのか

嬉しい発見が続く

これらを読まずに死んでいく

あまりに多くの日本語使用者たちがいるのか

と思うと

せっかく日本語のプールの中に身を浸しているのに

なんともったいないこと

あわれになる

 

明治天皇の歌など

すでにたくさん選んできたので

この数年は

だんだん数を減らしているが

それでも

ちょく

ちょく

選んでしまう

九万以上の歌を残した

明治天皇の歌を

知らないというのはさびしく恐ろしいもので

人は平気で馬鹿にしたりもするが

まァ

九万首程度作ってみてから

馬鹿にしたら

ヨロシ

とよく思う

下手の横好き

というが

九万首を作り続ける物好きというのは

やはり

ただならぬ人

 

至尊調と呼ばれる

シューベルトの「グレート」のような

音の延びの心地よい

いかにも天皇っぽい歌も

もちろん

多く作ったものの

明治天皇の作歌の進歩は

だんだんと

個人的な歌へ

日常のこまかなものを歌うことへ

進んでいった点にある

作歌が天皇をふつうの個人にしていった

天皇が天皇を脱いでひとりの人になっていくさまが見える

そこのところが面白い

天皇の歌なんか…と

はじめは私も

思って読みはじめたものだったが

どうしてどうして

あれだけのこまやかな気持ちの書きとめられた

さまをいくつも見ると

そういう

偏見は自然と剥落していったものだった

 

2022年の読者が読むであろう

明治天皇の

なんでもない日常の歌を

いくつか

季節の流れの順に

此処に

 


雪ふれば駒にくらおき野に山に遊びし昔おもひいでつつ

 

さく花のかげにふたたび行きてみむまだ春の日はくれのこりけり

 

さみだれの風うちしめりさむければわたいれ衣けさも着にけり

 

蝙蝠のかさもたたみて夏かげの柳のもとにたちよりにけり

 

玉川のながれをひきしやりみづにあつさわするる九重の庭

 

きりはれし月夜にみればわがをかのすすきはなべて穂にいでにけり

 

しづかにも更けゆく夜はのかねたたきいづこともなくきこえけるか

 

菊のはな机のうへにさしてみむそのふに遊ぶいとまなければ

 

冬浅きほりのうちにもあしがものけさひとつがひ浮きそめにけり

 

文机にかざれる玉の光まで寒くぞ見ゆる霜さゆる夜は





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