武田信玄遺訓
一 分別ある者を悪人と見ること
一 遠慮ある者を臆病と見ること
一 軽躁なる者を勇剛と見ること
右は主将の陥り易き三大失観である。
監視カメラ等が異常なまでに多量に設置されるようになった頃から
とりわけ絶対的監視の的となるエレベーターに
たったひとりで乗る時など
私はあえて軍人やロボットのように振舞うことにした
直立不動の姿勢で立ち
移動する時にはできるかぎりの直線移動をし
顔はつねに前方に硬く向け
視線は正面を凝視する
可能なかぎり瞬きもせず
表情は冷たく固定させたまま崩さない
永続的監視強化の社会で
最もしたたかに本質を隠して生きのびるには
軍務中の軍人のように行動するのが最善で
監視側が望む完璧な仮面と制服を自主的に体現してしまえば
内面では逆にこちらの自由度が高まる
子どもの時から私は
日本史上でキリシタン弾圧に使われた踏み絵の効能が理解できなか
キリストや聖母マリアの絵姿を表わした絵を
キリシタンが踏めないというのが全く理解できなかったのだ
踏み絵に描かれたキリストや聖母マリアは
キリストや聖母マリアではない
それは無信仰者や敵によって描かれた偽りの絵に過ぎず
それだけでも信仰者にとっては
軽蔑され忌避され踏みつけられるべきもののはずで
踏もうが唾を吐こうが破壊しようが問題にもならない
踏み絵を踏むのを拒むキリシタンには
異なるもの同士の間に照応関係があるとする思考法があったのだろ
それは恣意的で不正確なオカルト的・象徴主義的思考法であって
詩歌を作る際のカデンツァにはなるが
この物質界で素粒子論のみを信仰して物質主義者として生きる上で
真面目に取り扱うべきものではない
ひとことで言えば
キリシタンはバカではないのか
と思い
おそらく踏み絵という識別法は
人類から
恣意的なオカルト的・
キリスト教の偽神をはるかに超越した真の神が
長崎の支配者側の意識に天から下ろした霊感であったのだろう
そう考えた
こう考えていた私は
子どもの頃から
言葉や身振りや態度や行動などすべては
自分が意識の内部で最も頼りとする思考法や世界観や価値観と
なんら関連付けする必要もないと結論していた
言葉や身振りや態度や行動などすべては
その時々の世間の風潮や流行に対してとりあえず合わせておく服装
そこには私の本質など顕われていないし
顕す必要もない
それらは私では全くない
そもそも
自分が意識の内部で最も頼りとする思考法や世界観や価値観なども
いつでも取り替えのきく一時的な道具に過ぎない
自分の思考法や世界観や価値観は
自分ではない
くりかえし私は言うが
そもそも
自分でさえ
自分ではない
ただの単語に過ぎない
単語と真の私のあいだに堅牢な不朽の照応関係などない
エレベーターのように全面的に監視される場所では
私は今後
監視カメラに向かって敬礼をしようと思うようになっている
たまたま乗り合わせた人などにも敬礼はよい挨拶法だろうと思うが
もちろん最上なのは
古代ローマ帝国やナチスドイツで為された
例の「ハイル、ヒトラー!」型の挨拶法であろう
日本列島にいるのだから
もちろん帝国軍人のように
軍靴をガチッと音をさせて合わせて礼を示すのもいいかもしれない
大切なのは
第二次大戦後に西側諸国で広がったような意味での自由さや人間味
根絶させるような社会的・・・
いや、ソーシャル・ビヘイヴィヤを
この21世紀的全体主義化の急進する時点で
みずから進んで
率先して視覚化してやることであろう
人間は周囲に見えるものに内面を即座に同化していく動物なので
軍人的ないしはロボット的に振舞う人間が増えれば
民衆はすみやかに軍人化しロボット化する
大量に民衆が軍人化しロボット化した社会は
もちろん必ず華やかに瓦解する
軍人化しロボット化することがすみやかで
全面的であればあるほど
瓦解ははやめに完膚なきまで完全に発生する
おお、大戦後のベルリン!
おお、大空襲後のうるわしき東京!
おお、原爆投下後の悟りきった広島!
おお、そして長崎!
もちろん
人界はつねに鼠とウジ虫の世界であるからして
次の時代に現われるのは
岸信介であり
児玉 誉士夫であるが
諸君!
積極的に
先んじて
みずからこの新たな全体主義の時代を作りあげていこうではないか
先んじてみずから意志的に行なう者だけは
みずからの行動を全く信じないので
みずからの行動を導く思念に汚染されずに済む
カール・ポランニーが言ったように
まことに
まことに
「愚かな人には、ただ頭を下げよ!」
なのである
人界には
人に頭を下げ
讃辞を捧げ
拍手し
歓声を上げ
さらには
勲章や賞を授与してやるという
最大級の侮蔑法が
ちゃんと準備されてもいる
そう
ポール・ボウルズの
あの戦略も
つねに有効だ
「心の奥底ではすべてを丸ごと拒絶しながら
うわべは受け入れるふりをするという戦略」
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