2025年2月23日日曜日

ジェーンという名の女


 

 

まだ

封を開けてもいない

真空パックされた高価な珍味が

ずいぶん前に賞味期限が切れていたことに気づいて

ちょっと驚いたが

宇宙空間で開封すれば

新しかった状態に戻るような気がして

宇宙船から漆黒の外へ出て

開封してみた

 

新しい状態に戻ったかどうか

わかりようもないし

宇宙服で閉ざされている口に持っていくわけにも

いかないので

そのままポケットに入れ直した

 

ふっと眠けに襲われ

ほんの一瞬のことだというのに

象の夢を見

キリンの夢を見

そのあと

ジェーンという名の金髪の女の夢を見た

 

そんな名の

金髪の女とは

知りあったことがない

 

ともあれ

宇宙船の外で

眠けになど

襲われるのは危険だ

 

気を取り直して

出入り口のドアの大きなハンドルをまわし

船内に戻った

 

座席のある部屋まで行くと

椅子のひとつには

ジェーンが待っていて

開封した珍味がどうなったかを

聞いてきた

 

少し

恐ろしくなった

 

眠けに襲われたことが

ではなく

ジェーンなどという名の女とは

知りあったことさえない

などと

思ったことが

 

きっと

船内には

象もいれば

キリンもいるのではないか?

 

そんな

途方もないことを思って

船内を見まわすと

キルル

キュルル

というような音を立てて

人間っぽく作られている操縦ロボットが

こちらに顔を向けた

 

恐ろしくなった

というより

呆れてしまった

 

このロボットとともに

宇宙船で

地球上の軌道を

まわっているところだったではないか!

 

ジェーンという名の女など

いっしょではなかったし

人間は他に

だれも

乗ってはいない

 

それなのに

今さっき

ジェーンが椅子のひとつに

座っているのを見た

なんて!

 




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