まだ
封を開けてもいない
真空パックされた高価な珍味が
ずいぶん前に賞味期限が切れていたことに気づいて
ちょっと驚いたが
宇宙空間で開封すれば
新しかった状態に戻るような気がして
宇宙船から漆黒の外へ出て
開封してみた
新しい状態に戻ったかどうか
わかりようもないし
宇宙服で閉ざされている口に持っていくわけにも
いかないので
そのままポケットに入れ直した
ふっと眠けに襲われ
ほんの一瞬のことだというのに
象の夢を見
キリンの夢を見
そのあと
ジェーンという名の金髪の女の夢を見た
そんな名の
金髪の女とは
知りあったことがない
ともあれ
宇宙船の外で
眠けになど
襲われるのは危険だ
気を取り直して
出入り口のドアの大きなハンドルをまわし
船内に戻った
座席のある部屋まで行くと
椅子のひとつには
ジェーンが待っていて
開封した珍味がどうなったかを
聞いてきた
少し
恐ろしくなった
眠けに襲われたことが
ではなく
ジェーンなどという名の女とは
知りあったことさえない
などと
思ったことが
きっと
船内には
象もいれば
キリンもいるのではないか?
そんな
途方もないことを思って
船内を見まわすと
キルル
キュルル
というような音を立てて
人間っぽく作られている操縦ロボットが
こちらに顔を向けた
恐ろしくなった
というより
呆れてしまった
このロボットとともに
宇宙船で
地球上の軌道を
まわっているところだったではないか!
ジェーンという名の女など
いっしょではなかったし
人間は他に
だれも
乗ってはいない
それなのに
今さっき
ジェーンが椅子のひとつに
座っているのを見た
なんて!
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