くだらない本
という言い方をする人がいるが
どんな本でもとりあえずはめくってみるような人は
くだらない本
というものが存在しない
と知っている
くだらない本
などというものが
あまりに
無さ過ぎて
恐ろしくなるほどだろう
どの本もめくる価値があり
どの本も読む価値があり
どの本も所有すべき価値がある
と気づかされることほど
本好きにとって
恐ろしいことはない
生きているかぎり
本の物理的な重圧と場所取り性に
抑圧され続けなければならないからである
ある意味では
本は
空地や山道に落ちている石片や枯れ枝のようなもので
使いようによって
価値も出れば
役立たずにもなる
もう少し近い譬えを用いれば
本は
半導体そのもので
うまく使えば大変な威力を発揮するが
性能も知らず繋げ方も知らなければ
ただのゴミに終わる
本だけでなく
世の中には
くだらないものシリーズがいっぱいで
くだらない映画
くだらない音楽
くだらない絵
くだらない集まり
くだらない仕事
くだらない会社
くだらない授業
くだらない学校
くだらない人生
などなどが溢れている
どれもこれも
使いようにかかっている
と気づき直せば
くだらない
と形容する発話者の愚かさを表わすに過ぎない
とすぐにわかるので
くだらない
という形容詞は
じつは
とても価値のある言葉だとわかる
とても価値のある言葉だ
とわかったうえで
くだらない
くだらない
くだらない
……
とくり返し呟いてみると
なんだか
御利益に溢れた呪文のように聞こえてくるから
くだらない
という言葉は
やはり
くだらなくないようなのである
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