急げば渡れたはずだが
疲れてもおらず
物憂げになっているわけでもなく
からだに鈍重さが染みているのでもないのに
歩行者用の信号灯が点滅しているのを見ながら
なんとなしに
横断歩道を渡らないことにした
大きな通りで
夜の入り
歩けば15分ほどかかりそうな
遠く
むこうの方まで見通せる
車用の信号が
間隔をおいて遠ざかって並んでいるのが見える
まだ浅い夜だが
じゅうぶん暗くなったので
信号の青いひかりがあざやかに見える
四つほどの信号灯が
順々に小さく遠ざかりつつ立っているのが見える
都会の繁華な
忙しない情景の中で
ひかりと色が作り出すこうした幻は
美しい
しばらくして
車用の信号が変わり出す時が来た
安定した青色を灯していた
いちばん遠くに小さく見える信号灯が
青から黄に変わった
ほんの少し遅れて
それよりもこちら側にある
次に遠い信号灯が
青から黄に変わった
それから
ごくわずかに遅れて
さらに近い信号灯が黄へ
すぐ続けて
わたしが立ち止まって待っている
この交差点の信号機も
青から黄へ
距離を置いた
これら
四つの信号灯の色の変化のリレーは
わたしだけ
気づくことを許された
新たな世界の開示であるかのように見えた
この交差点で
距離を置いた複数の信号灯の
こうした変化のリレーをしっかり見たことは
なかった
他所では
こうした光景を見たことは
わずかながら
ある
しかし
長いこと
見ないでいてしまって
いた
なんと長いこと
見ないでいてしまって
いたことか…
と
わたしは
このところの
わたしの生と生き方に欠落していたものを
認識し直した
そして
思ったものだ
そうか
このために
さっき
わたしを深くから導くものが
あえて
横断歩道を
渡らないように選ばせたわけか
と
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