2015年7月22日水曜日

むかしから馴染みの墓守のオバサンよオバアサンよ



足の関節の悪くなった老親のかわりに
一日をつぶして大施餓鬼供養に参加したが
むかしから馴染みの墓守のオバサン
いまではオバアサンが
「まぁ、かわりにお施餓鬼にも来てくれてねぇ
「いくら仲が悪いって言ってもねぇ
「他人じゃ、こうはしてくれないですものねぇ
そんなことを言っていたので
ははん
わたしが来ない間に
やはりいろいろとロクでもないことをしゃべって
わたしを悪者にしていたんだろう
うちの親たちは
と思った

酒乱の父と
見栄と世間体と偽りだけで固めたヒステリーの母を持って
幼時の時から家庭内暴力の日々を生き延び
20代で家出して
人生を大きく狂わせられて
資金も住まいも人間関係もゼロのところから始め直し
未だに家には戻っていないわたしの人生について
そろそろフィクションも隠蔽もなしに
語り始めようかと思う
あまりに長い時が経ったから
いまさら報復でもなんでもないが
たゞ
わたしひとりのかたまり切ったこころを
内部の井戸の奥の奥から救い出して
いくらかでも自由に伸びをさせてやるために
どれほどひどい親たちだったか
なんの謝罪もしていない恥知らずなことか
家出した暑い7月の夏の夜
そもそも弟と酔った父との取っ組みあいの喧嘩を止めに入って
酔いから狂乱した父が
包丁を振り上げてこちらに向かってきたのに対し
家中の箪笥や食器棚やテーブルをすべて倒し破壊し
包丁を取り上げて電話線を切って父に投げつけたところで
交番に駆けこんでいってわたしを逮捕しろと売ったところで
父子のつながりがすべて終わったのを
数十年
わたしは一秒も忘れなかったが
むこうはすっかり忘れたか
忘れたふりをし
弟も完全に忘却し去り
母も忘れたふりをして
すべてがわたしの悪行とされた一家族の完全崩壊の物語を
そろそろ語り始めようか

むかしから馴染みの墓守のオバサン
オバアサンよ
仲が悪いのではない
酒に酔った自分が悪かった
許してくれ
と父がひとこと言えばいいだけのこと
俺のせいで兄貴にトバッチリが行ってあんなに人生を狂わせてしまって
と弟が言えばいいだけのこと
母は母で何かあると自分の家の自慢ばかりし
家格の低い父を子供の前で罵倒するのを慣例とし
父を助けた祖父に足を向けて寝られないだろうお前は
わたしやお父さんがいなければお前なんか生きてもいられないんだ
この酒乱め
また警察に捕まって
わたしたちに苦労ばかり掛けやがって
と幼いわたしの前でどなり散らし
この人のようになっちゃダメよ
酒に飲まれてばかりの最低の人間なんだからね
お前はお酒なんかに飲まれないで
まともな人間にならなきゃだめよ
と、―正確に言おうー、
わたしが0歳の時から家出の22歳の夏まで
毎日とは言わないが毎月
ほぼ毎週
叫び続けた
そんな母
そんな父
そんな弟
彼らの圏域からとにかく離れることで
まだ不安定だった若い意識の崩壊を免れようとし続けたあの頃
わたしを骨の髄から反家族主義者にし
あらゆる家族的繁殖を
再生産をみずからに禁じさせた
あの頃の魂の骨髄を
そろそろ語り始めようか
わたしひとりに擦りつけられた悪のレッテル
不良の
極悪非道の息子と
世間に言いふらされたレッテル
それをかち割って
使える言葉をフルに使って
わたしはわたしを悪人という
家の馬鹿息子という
捏造とレッテルからいよいよ解き放とうか
むかしから馴染みの墓守のオバサンよ
オバアサンよ



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