白菊稲荷*を訪ねたあと
眠りのなかを
ほそい体の女が
薄い着物の前をはだけて
ほとんど脱いだようになって
わたしの左肩にしなだれかかってきて
かわいいねぇ
青いキモノ
と
妻とわたしの
ある時の光景の
青いキモノを来た妻のことを言ったので
きっと白菊稲荷にいた女の霊が
夢に来て
言い置いていったのだろう
と思った
暁星小の裏手
二合半坂の小公園の下
ビルの狭間の暗いさびしい空間に
いまは押し込められたようになっている
小さな稲荷だが
祠を前にして立って見廻してみると
子どもらの影が動き
かれらの遊ぶ声の響くような
さまざまな過去の見える
さびしいばかりでもない霊界の渦が
巻いている
ほそい体の女は
きっと小さな境内のどこかに
立っていたのだろう
家守の吸いつく手の先のような
あるいは蛙の腹の肌のような感触を
わたしの左肩にくっつけながら
かわいいねぇ
青いキモノ
と
言った声は
わるい感じではなく
耳底にちょっといとしいように
残った
*白菊稲荷。千代田区飯田橋1-23-31。
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