2022年1月2日日曜日

白菊稲荷を訪ねたあと眠りのなかを

 

 

白菊稲荷*を訪ねたあと

眠りのなかを

ほそい体の女が

薄い着物の前をはだけて

ほとんど脱いだようになって

わたしの左肩にしなだれかかってきて

かわいいねぇ

青いキモノ

妻とわたしの

ある時の光景の

青いキモノを来た妻のことを言ったので

きっと白菊稲荷にいた女の霊が

夢に来て

言い置いていったのだろう

と思った

 

暁星小の裏手

二合半坂の小公園の下

ビルの狭間の暗いさびしい空間に

いまは押し込められたようになっている

小さな稲荷だが

祠を前にして立って見廻してみると

子どもらの影が動き

かれらの遊ぶ声の響くような

さまざまな過去の見える

さびしいばかりでもない霊界の渦が

巻いている

 

ほそい体の女は

きっと小さな境内のどこかに

立っていたのだろう

家守の吸いつく手の先のような

あるいは蛙の腹の肌のような感触を

わたしの左肩にくっつけながら

かわいいねぇ

青いキモノ

言った声は

わるい感じではなく

耳底にちょっといとしいように

残った

 

  

 

*白菊稲荷。千代田区飯田橋1-23-31東京大神宮の参道脇にある。この近くに住んでいた呉服商・斉藤三郎が、大正15(1926)7月、五穀豊穣を願って伏見稲荷大社(京都市伏見区)より宇迦之御霊魂神(倉稲魂神)を勧請し、宮社を建立したのが始まりという。菊を愛した斉藤三郎にちなみ、白菊稲荷と呼ばれるようになったというが、伏見稲荷大社内の三ノ峰に位置する「白菊大神」から御祭神を勧請し,これに由来して「白菊」の名を冠した可能性も高いという。





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