台風のしらせが新鮮に窓ガラスに触れてきている…
口調を変えねばならないだろう、私の心の若葉に間を与えるために…
風景の横揺れが繁くなってはまた弱くなりまた繁くなって古墓に
まだ小さい若いカマキリが一匹立ち止まっている
卯の花、さつさつと咲いて、いる、家沿いの径に
自転車で来て、どこへいったのか、あの小柄な郵便屋さん…
紫陽花が花盛りというのに、
紫陽花が花盛りというのに、
カラスが困り顔に電柱の上に止まったまま、東のほうを見ている…
遠い葬式が気になるかい?それとも結婚式かい?
台風の香りでも嗅いでいるのか、窓ガラスも、カラスも、
藤の花も長い種になって、微風に揺れている。水、表面の皺のような漣、
ひとつ、紫陽花、買おうかな、どこかの花屋さんで。色の濃い
大き過ぎない鉢、あるかしら、…キャラメル、…歩いているんだよ…
翳が夏になだれ入る… 墓も、町への道標も、みんな、また、夏だ、…
まだ動かないカマキリ。親はどうした? 親なきカマキリの若緑の鎌よ
心の花は、カラスウリの、花。野生のレース縫いの、白い網の宇宙よ
まだ咲かないなぁ、いつ見られるかなぁ、鮒の煮つけ、ふいに食べたい…
ひとり、私、生きのびて…、もう長いこと居る四季の郷…、躰の
翳が地に延び、風が立ち、人々など、もう、すっかり忘れているよ、…
躰までは、まだ、変えなくてもいい?…、手の甲の肌が今日はきれい、
この肌の艶の中にわたしの魂の小さな卵が棲む、…たぶん、若草色して
若草色して、人生にもう一度潜ろうか、透明なところをよく選んで進み、
卵を守りながら、…薔薇の花々の終わりの、ふいの静けさのように
…花々の季節、次々と続き、また花、また次の花、どちらのほうへ
生きていく?、死んでいく?、衰えは笹色の小舟、漣にちょっと揺れて、
笹の葉さらさら、季節、また来る。躰、笹の葉して、でも、変えなくて、
きれいな色したおいしい飲み物を飲んで、クラインブルーの夕闇待って…
まだカラスが困り顔に、電柱の上に止まったまま、東のほうを見ている…
道路標識が一本立っている夏待つ径の坂、私の心の、葉の繁りのほうを、
見ていて、見ていてから、ゆっくり向き変えて、歩み出す、軽い翳の
小さな卵の保ち手。輪郭の曖昧な、正しい、夏への向かい…