2018年10月30日火曜日

パセリ、セージ、ローズマリーにタイム




Are you going to Scarborough Fair? 
Scarborough Fair
  


くりかえされる
Parsley, sage, rosemary and thyme
(パセリ、セージ、ローズマリーにタイム)

ささやくような
サイモンとガーファンクルの声で*
寄せてくる
スカボローフェアの
謎のような
いや
謎そのものの

くりかえされる
Parsley, sage, rosemary and thyme
(パセリ、セージ、ローズマリーにタイム)

パセリは鎮痛?
セージは強さと忍耐、そして魔除け?
ローズマリーは愛?
タイムは勇気?

くりかえされる
Parsley, sage, rosemary and thyme
(パセリ、セージ、ローズマリーにタイム)

古いイギリスの民謡は
サイモンとガーファンクルの声で
付加された詠唱から
反戦歌の装いを帯びたが

縫い目もない
こまかな針仕事もしていないシャツを求めたり
海と浜辺の
あり得ない隙間に
一エーカーの土地を求めたり
革でつくった切れない鎌で
刈り取りを求めたり

それらをしてくれれば
スカボローに
いまも住む彼女は
わたしの真の愛を得られるだろう
と歌う詞は
二〇世紀の戦争などかるがると超えて
ちがう世界へ
あまりに世相や現代にとらわれ過ぎた聴き手など
情け容赦もなく
散らしながら
入っていってしまう

くりかえされる
Parsley, sage, rosemary and thyme
(パセリ、セージ、ローズマリーにタイム)

流行りの健康志向だの
ダイエットだの
ヴィーガンだのでは
いまだに
扉を開けることも
その先に
侵入することもできない
Parsley, sage, rosemary and thyme
(パセリ、セージ、ローズマリーにタイム)


くりかえされる
Parsley, sage, rosemary and thyme
(パセリ、セージ、ローズマリーにタイム)









ジーン・ハーロウを思い出したりもしながら


 
ジョージアにも
カリフォルニアにも行った
行けるところへなら
どこへでも

シャンパーニュで
喉をうるおしながら
ニースにも
ギリシャの小島にも
ヨットで

ジーン・ハーロウのように
モンテカルロに乗り込み
私が手に入れたものを
みせびらかしてやりもした

……と
場所の名にちなむ箇所ばかり
つまみぐいして
シャーリーンのI’ve never been to me
歌の印象をレジュメしながら
聴いているうちに

まるで
あらゆるひと
ひとりひとりの人生の暮れがたが
いっぺんに来たかのように
壮大な
贅沢すぎる今日の夕ぐれ

ひさしぶりに
あのプラチナ・ブロンドの化身
26歳で死んだ
ジーン・ハーロウ*
思い出したりも
しながら

I've been to paradise 
but I've never been to me... *
(パラダイスに行ったことはあるけれど
(私自身に辿りついたことはなかった……
とシャーリーンは歌うが
ふたつ目の行は
人生の正しい悔悟のようでいて
じつは
くだらない

取り除いたほうがいいよ
シャーリーン

I've been to paradise 
だけ
くりかえして歌っていれば
それでいい









2018年10月28日日曜日

今をさかいにひたすらに感傷していく!

  

  「シモン、シモン」と彼の名を叫び、
  なぜかわからないながら、彼女はつけ加えた。
  「シモン、もう、わたし歳なのよ、もう、歳なのよ」
  フランソワーズ・サガン『ブラームスはお好き?…』

« Simon, Simon, et elle ajouta sans savoir pourquoi :
Simon, maintenant je suis vieille, vieille... »
Françoise Sagan « Aimez-vous Brahms... »




めずらしく
休みのとれた金曜日
午後おそくから
山の地方の別荘に入り
道みち
いいかげんに買い集めてきた
夕食がわりの
総菜や
おにぎりや
ちょっと甘い菓子パンやと
テーブルにひろげて
つまんでいる

居間の大きな長方形の窓は
西にむいているので
沈んでいく夕暮れの陽と
そのまわりの空や
雲の色の
とりどりの彩が
しばらくは見ていられる

陽は居間のなかへも射してきて
テーブルの上の
いろいろなものの翳を
ふかく
ながく
伸ばしている
うしろをふり返ると
わたし自身のからだの翳も
壁にくっきりと投影されていて
まるで
翳のほうこそが
わたしをあやつってでもいるよう

こんなところへも
電波は届き
今しがた
歳わかいいたずら者から
Lineが一通届いた
開けてみると
このところ古いアニメを見直すのが
マイブームで…
と短く書いてあり
Youtubeへのリンクが載せられていたので
親指の腹で触れてみる
すこし気持ちをさざなみ立てるような歌がはじまり
しばらく聴いてみているうちに

地球はまわる きみをかくして
  かがやくひとみ
  きらめくともしび
  地球はまわる きみをのせて
  いつかきっと出会う ぼくらをのせて*

という詞の流れが
わたしひとりだけの夕暮れに滲み込み
オレンジに染まる
遠い山
近い山
窓からひろがってみえる
すっかり枯れ色になった田園に
まるで
静寂というものが
ひととき
ことばと化したかのように
滲みひろがっていった

出会うべきものには
わたしは
もう
すべて出会ってしまって
なおも
地球がかくしているような
だれかは
たったのひとりも
もう
地球にはいない……

そう
思いながら
それでも
あれら
かがやくひとみや
あれら
きらめくともしびの
なんとたくさんだったことか!
たったひとり
無限の幸福のなかに
浸り直す

こんな歌だったか
もう一度
くりかえし聴きはじめながら
ちょうど
そうわるくない軽い甘さの
菓子パンを
すこしちぎって
口に運んだところで

さあ でかけよう ひときれのパン

というところに
もう一度
出会い直す

うまく
言ったものじゃないか
しみじみ思わされながら
わたしとともに
わたしの前で
かつて
ひときれのパンに手をのばしたり
口に運んだり
バッグに入れたりした
あゝ、
たくさんの
なんとたくさんの
あれら
わたしを
ひととき受け入れ
わたしに親しんでくれた
得がたいひとたちの至上の光景だったことか
きょう
わたしひとり
燃え上がるオレンジの夕陽のなか
感傷
していく

重くもなく
さびしくもなく
わびしくもなく
むしろ
あたうかぎり
豊饒に
これからは
感傷
していこうか
と思う

しかり!

わたしは
感傷
していく

今を
さかいに
ひたすらに
感傷
していく!







ボーッと生きながらえながら


ときどき
雲も流れて行きはするものの
だいたいのところは
よく晴れた
秋の好日

遠く近くの高層ビルをぽーっと見ながら
(チコちゃんには
(ボーッと生きてんじゃねえよ
(って怒られそう…
とある高層ビルのお話を
思い出しておりました

建ってから
もう30年にもなっていたその超高層ビルは
設備もほうぼう古くなり
テナントの数も減るばかり
維持するにも経費がひどくかさんでいた上
80万ドルの改築工事の予算を組んでいたものの
鉄骨に吹きつけられていた発癌性物質アスベストの除去が
いちばんの金食い虫で
頭の痛い大問題
それを除去するには10億ドル以上はかかる計算で
正直言って
完全お手上げ

タワーを管理していたニューヨーク・ニュージャージー港湾公社には
この金食い虫ビルを手放すことこそ最大の得
うまいぐあいに
数字10の日本読みのひとつの商売上手な民族のひとりだった
大手不動産会社オーナーに
このビルのリース契約は移転
やり手の新オーナーが
もちろん
損を覚悟でポンコツ高層ビルを手に入れるわけもなく
32億ドルで99年間という契約内容で
ビル本体もオフィス賃貸料もすべて保険で補償という条件ばかりか
再建資金すべてが保険金によってまかなわれ
再建までに要する期間の賃貸料まで
年間1億1000万ドルが毎年支払われるしかけを整えた上で
あたかも巨大テロ事件か
と見紛うような
大がかりなビル破壊をやらかしたのでした
新オーナーのもくろみは
地域全体の再開発でしたから
近在のビルまで地上げし
第7ビルなどの所有権も手に入れてからの大イベントでした
みごと
新オーナーは
もちろんしっかり入っていたテロ保険のおかげで
80億5千万ドルの大金を手にします

よく晴れた
秋の好日
遠く近くの高層ビルをぽーっと見ながら
ボーッと生きながらえながら
ふと
思い出していた
むかぁしむかしの
とある高層ビルのお話でした