すぐ次の時間は
あたまの左側から入ってくる
これに気づいてからは
ときどき
あたまの左側から心の耳を出して
近くの未来を聴く
滝のような
霧の森のような
すずしい
大きな穴があるところ
そこの境目に
いつも涼んでいるのは
もっと
本当の自分?
もっと
嘘でない
自分?
ここは
ここではないね…
本当だね
ここではないここが
ここかしら…
そんな話の
すらすら通じる心地よさ
近くの
未来を聴きながら
涼んでいる
ぼくら
ダメにしてしまいそうだったが
持ち直してくれて
よろこばしい
サボテン
午後には陽もあびて
やわらかい宝石のような
かためのゼリーのような
未来ある
みどり
自他の境というものを
思いなおすのだ
境のむこうも
やはり
わたしらしいと
その証拠にみな
わたしと自称する
その証拠にみな
おし黙ったりする
すぐ次の時間は
あたまの左側から入ってくる
これに気づいてからは
ときどき
あたまの左側から心の耳を出して
近くの未来を聴く
滝のような
霧の森のような
すずしい大きな穴があり
もっと本当の自分が
そこの境目に
いつも涼んでいる
ここは
ここではない
こんな話の
すらすら通じる人に
まだ
出会えるのかな
日の暮れがたに
入っていく
空気とも
大気とも呼びかねる
この不思議な澄明さはなんだろう
まだ明るいのに
終焉が
ものの端々を浸し
この世はやはり奇跡であったと
心に反省を強いる
ひとりでは
ないのかもしれない
ものは
心であったかもしれない
素直に
生きてみるか
もっと
寂しさを
寂しみ
肌寒さを
もっと
肌になりきって
受け
祝日
日の丸
いつもどおりの白地に赤丸
さっぱりした
容赦ない
酷薄なデザイン
まつわる歴史でなく
あのデザインがつらく
幼時より嫌った旗
お絵描きの時
赤丸のまわりに
他の色で輪を描き
耐えた
あ、ラッキーストライク…
幼時の絵を思い出しながら
悟った
壮年のある日
もう煙草は吸わなくなっていた
はためき続けている
日の丸
晴れ上がった成人式の日
きもの着なれぬ
あの子たちも
なんとか
様になったかな
成人なんて
しかし
若者を馬鹿にした言い方
昨日まで
なんだったのかな
あの子たち
はたちまでに
ひと仕事終えてしまった
ランボーや
ラディゲ
世界の成人たちが
こぞって
読み超えられないでいる
幾重にも梱包された
重い荷物のように
モーツァルトさえ
感じられる
どの荷も
今日は解かずにいよう
古い椅子にからだを落とし
見るでもなく
聞くでもなく
なにかを
いつもしているという不幸
時間の過ぎ去りの
継ぎ目
継ぎ目と
友だちになって
なんだか
誰も来ない牧場を
そぞろ歩きしてきた気分
(…あの人たちのように
(生きたくはないな
追わない思いがある
ひろげない
思い
ぷつぷつと
生まれ続ける
細胞たちこそ健やかなれ
そのための
肥やしになるものだけ
心の手に掬う
常寂光寺の冬の池
畔にひとり
時は流れ
ともに訪れた人たちも逝き
畔にひとり
止水のさまに目を落とし
沈む枯葉を数え
苔生した
いにしえの墓はならぶ
丹精の木々は
たぶん
明日を待つ
時は過ぎるが
到り続けもする
小風が吹き過ぎ
陽は移ろい
寂しさは
たぶん
充実のあかし
常寂光とは
よくぞ
言ったる
死んだ人たちに
いつまでもかかずらわっている
わけにもいかない
たとえば船に乗っていて
どこかで陸に
上がってしまったのが彼ら
まったく
海を離れちまいやがって
と惜しむのは
じつは滑稽かもしれない
海と陸と
どちらが永遠か
そんな馬鹿な問いも
もやいや錨の役に立つ
わけのわからない
宇宙
わけがわからないが
方途のない
わけでもない
宇宙
ふたりにしかわからないふたりのこと
ふたりにさえわからないふたりのこと
どこまで行くつもりなのと問う
どこまで来たつもりなのと問う
他人には見えない道にいつもいる
見えない交差点ですれ違う時
見知らぬ人たちの道々も垣間見え
ああ
なんと無数の道が…と
めくらめく
立ちつくし
しばらくして自分の道に戻ると
すこし温もっているような
その道
(自分のことも救う、とは…
もうすこし
わかりかけてもきたような
ふたりにしかわからないふたりのこと
ふたりにさえわからないふたりのこと
やはり
暮れがたの木の床が
しみじみと
いい
淡いひかりとなっていく
空を映し
屋内に咲く薔薇を
下から映し
窓の桟を
やわらかな十字架にする
求めない
ことにも慣れたか
遠ざけるべき
音曲
書物
温度が
生き物のように
わずかずつ
移っていっている…
線香の香り
思い出す
あれこれは
線香の香りのなかに
そのままに
さざんかが
美しい
なんといっても
またすぐ
来る春
一杯
ゆっくりと
酒を酌む
心もちだけは
保つ
自然に整う
その他の
こと
うすいカーテン越しの外光も
みな
うつくしい
なんの比喩か
わからない人びとから離れて
遠いもの
近いもの
ひと息の中に
収まってしまう
みんな
ここにいるよ
と呼びかけるべき人もいない
ながい季節
日の出
日の入り
草木のそよぎ
あのことも
このことも
シルエットへとなりゆく
ゆうべ