自我を見せつけてくる言葉たちがうるさいのでなく
自我と呼ぶべき自我がそこにほとんどないことがうるさい
自我があるふりをすることばかりに人はいそがしく
そんなふりをしているあいだに自我はさらに縮む
生まれる前にどこにいてどうしていたか語れない人に
自我などというものも努めて守るべきものもない
だから記憶の喪失も意識の崩壊も死も恐れるに足らない
人に人とみなされる人であるということは何者でもなかった証だか ら
肉体を養うだけのための細い関わりだけを人界とは残し
精神と霊はそろそろ完全に人界を去ってしまう頃合
とりわけ言葉と思念と感覚とを用いずにすべてを解し
反応は無反応の極みのようにし動きは全き不動とするように
音の外に別種の音を自分の耳でない耳で聞いて導きを受け
ものの無さのほうへつねに寄り無さをこそ身体とするように