いっぱい
いっぱい
いっぱい
家でやるべきことがあるので急いで急いで急いで帰ったら
バッグの中にあるはずの鍵が鍵が鍵が
ない
ない
ない
朝の出がけには家人がいたのでいたのでいたので
玄関に鍵を鍵を鍵を置き忘れて置き忘れて置き忘れて
出てきて
しまったのだ
しまったのだ
しまったのだ
一時間後に宅急便が来るように手配してあったしあったしあったし
玄関ドアの前には蚊もいるしいるしいるし
さあて
さあて
さあて
なにとなにをどうすればいいんだ
なにとなにをどうすればいいんだ
なにとなにをどうすればいいんだ
と
急いで考えてみるものの
みるものの
みるものの
いくら考えても
考えても
考えても
宅急便をべつの日に来るようにしてもらい
鍵は
鍵は
鍵は
家人の勤め先まで取りに出かける他ない他ない他ない
ひと仕事終えて疲れている中
疲れている中
疲れている中
1時間半かけて帰宅したばかりで
ばかりで
ばかりで
また40分ほどかけて都心に出かけるのは憂鬱きわまるが
きわまるが
きわまるが
取りに出かける他はない
他はない
他はない
そうして再び電車に乗って
乗って乗って
乗って本を開けば数十分で乗り換え駅に着き着き着き
乗り換えて最寄駅にも着き改札を出て階段を上り出したものの
上り出したものの
上り出したものの
家人から
用事があったので隣りの駅に来てくれとメールが届き届き届き
取って返してスイカし直して
スイカし直して
スイカし直して
いま降りたホームに戻って戻って戻って
いま来た次の電車に飛び乗って飛び乗って飛び乗って
隣りの駅へ
隣りの駅へ
隣りの駅へ
着いた隣りの駅の改札を出て出て出て
どっちに行けばいいかと思っている間に
思っている間に
思っている間に
家人が来て「はい、鍵。急ぐから、じゃあね」
と鍵を渡してくれたものの
渡してくれたものの
渡してくれたものの
なんだ
なんだ
なんだ
それなら改札を出ないでおけばよかったものを
よかったものを
よかったものを
と思うが後の祭り
後の祭り
後の祭り
もう一度同じ改札を入り直して
入り直して
入り直して
帰路につくべくホームへ向かった
向かった
向かった
しかし
切れちゃったんだな
切れちゃったんだな
切れちゃったんだな
ここで
ここで
ここで
わたしは切れてしまった
家に帰る気がなくなってしまった
なんだか
心底ほんとうに嫌になってしまった
けっこう疲れながら急いで家へと帰ったところで家に入れず
鍵を借りに出勤並みの距離を都心の繁華街のひとつまで出向き直し
そこでも駅から駅へとごたごた廻り
家に入るための鍵をやっと手に入れたところで
切れてしまった
切れてしまった
切れてしまった
カレーが食べたくなった
カレーかぁ
しかし
駅中のいい加減なのはいやだなぁ
バイトがあやうい作り方をしているような
レトルトのルーをかけて出してくるようなのはいやだなぁ
かといって
本格的なインド料理に入りたいわけでもないし
そういう時間でもない
かといって
かといって
立ち食い蕎麦屋のいんちきカレーもいやなのである
いつものことだが
外でカレーが食べたい時というのは困る
世にカレー屋はいっぱいあるが
こちらのその時々の望みにあうカレー屋はまずない
あんな簡単な食い物なのに
ぜんぜんふさわしい店が見つからないのがカレーなので
いやだなぁ
いやだなぁ
カレーだけではない
なんだか東京駅のオワゾの丸善に行きたくなった
本なんかいくらでも家にあるので買うべきではないのだが
なんだかモゾモゾしてきた
モゾモゾ
モゾモゾ
こういう時はろくなことがない
ろくなことがない
ろくなことがない
散財のやつめが
散財のやつめが
散財のやつめが虎視眈々と近づいてきている
消費税を
消費税を
消費税をフンダクラレそうな塩梅だ
そんな風向きだ
そんな血圧である
そんな体液の循環がはじまっていてもうダメだなこりゃ
もうダメなのである
もうダメなのである
もうダメなのである
行くしかない
東京駅へ
で着くと
だナ
ヴァロットン展のポスターが目に入って
あゝ見てなかったナ
ついでだ
見ておくか
見ておくか
見ておくか
と微妙に遠い三菱第一美術館へながながと歩いて行ってみると
なんだか知らないが長蛇の列
なんだかなぁ
なんだかなぁ
なんだかなぁ
20分だか30分は待つというので
や~めた
っとあっさりやめ(並ばない主義である。江戸っ子だからネ)
丸善に向かう
丸善に向かう
丸善に向かう
最初から丸善に行けばよかったが
と思いながらカレー屋ないかなとコギレイな飲食店看板を見ながら
歩いて行く
途中からは地下を通り
いつのまにかキレイになっちまったなぁと
感心しつつ寂しみつつ
あくまでカタカナのキレイなんだけどネと思いながら
キレイになっちまったなぁと
頭の中でくりかえしつつ
ながながと
ながながと
地下道を歩いて曲がって歩いてまた曲がって歩いて
オワゾ地下へ
丸善へ
ほんと飽きるよ
飽きます
秋ます
東京駅の地下道には
階上の丸善に昇る前に地下にカレー屋なんてあるかなと探すが
なくて
高いスープ屋チェーンがあるがそんなのはいらなくて
バルみたいなところにカレーの写真もあったが
なんだか気取り過ぎていて
外づらだけ取り繕った“おカレー”みたいで
まったくもってロクなものではなさそうで
となると
やっぱりなくって
やっぱりなくって
やっぱりなくって
そういえば丸善には有名なハヤシライスの店があったなと
ようやく昇っていく
ようやっとこさ昇っていく
ようやっとこさ
ようやっとこさ
オワゾの丸善にはときどき来るが
考えてみれば
洋書と文具の売り場しか見てまわったことがない
で
で
で
今日も同じこと
洋書と文具
いろいろ見たが
以前には気にもとめなかった現代フランス作家のDelphine de Viganの
Rien ne s’oppose à la nuitとか
Benoît Duteurtreの
Le voyage en Franceとかを
はじめて買って読む気になったのだから
ときどき本屋に来て実地で本をぱらぱらするのは馬鹿にならない
ときどき馬っ鹿みたいに家の鍵を忘れてセルフ締め出し喰うのも
馬っ鹿にならない
馬っ鹿にならない
もっちろん
もっちろん
もちろん
買って読んだからといって
なにかの足しになるとはかぎらず
人生的に深まったり浅まったりするとはかぎらず
言語中枢刺激的にも燻った不完全燃焼しか起こらないこともしばしば
しばしば
しばしば
増上寺
買ったからといって
ちゃぁんと読むともかぎらないが
(あァかぎらない
(かぎらない
(かぎらない
本は本
本は本
本は本
下から読むと「んほはんほ」
漢字仮名交じりで読む時のみ下から読んでも「本は本」
まったく別の次元の世界
わかる人にはわかるだろうが
わかるだろうがわかる人には
はに人るかわがうろだるかわ
わからない人にはわからねエだろうよ
そんな人にわからせる気はもうわたしにはねエんだ
と
ふと
ふと
ふと
ひさしぶりに開いてみたZolaの魅力にぐぐぐっと惹きこまれ
あゝこの文体がいまのわたしには要るのだったかと
Nana(ナナ)
L’Assommoir(居酒屋)
L’Oeuvre (作品)
を勢いで買うことにしてしまったのだよ
Nana
L’Assommoir
なんかはじつは家にちゃんと持っているのだが
あれは昔のFolio版で
いま目の前にある最新版のLivre de Poche版ときたら
奇妙なほどの面白さにわくわくしてくるほど
しかも絵入り・写真入り
なんだろう
この
わくわくさ
不思議
不思議
Zolaにわくわくするなんて
てなぐあいで
鍵を忘れて家をたまには出てみるものだろうよ
Zolaが待っていたのさ
Delphine de Viganや
Benoît Duteurtreも
待っていたのさ
ちょっと聞きたいが
諸君!
Zolaの「ルーゴン・マッカール家の人びと」シリーズを
ぜんぶ読んだ御仁はどのくらいおられるか?
しかもぜんぶフランス語原文で読んだ御仁は?
うわァ面白そうだとわくわくしながら
この21世紀
今どきZolaを愉しそうに買ってくる御仁は?
とうに何代も時代遅れになったはずの自然主義文学のZolaが
なんだか奇妙に面白くなってきている感じなのだよ
というわたしの気持ちに賛同してくれる御仁は?
じつは今の日本がZolaの時代のフランスに近くなっていて
人間がふたたび激しく極端に獣化してきていると
機械の一部どころか全部化してきていると
思い至ってくれる御仁は?
こうして
鍵を忘れたことに気づいてダブリンならぬトーキョーを
6時間も
6時間も
6時間もユリシーズした後
フィリピン産バナナ6本や
6本や
6本や
長崎産天然ブリ3切れや
アメリカ産豚小間肉400gや
オーストラリア産グレープフルーツ4個や
いるま産水菜や
まだまだいろいろとあって
なかなかに重い
重い
重い食材の買い物までして
なんとか自宅に帰りついた時にはほんとうに疲れ果てて
荷を下ろすや
倒れ込んで寝入ってしまった
寝入ってしまった
寝入ってしまった
寝入るまぎわ
あまりといえばあまりの
あまりのあまりのあまりの
あまりの疲労のためか
もうもうもうもう人生がすっかり嫌になってしまい
もうすべてを投げ出してしまおう
もうもうもうもうもうもうもうもうもうもうもう忍耐はやめよう
がまんして生を続けるのはやめようと思い
そうだ
もう死んでしまおう
などとつよく決心しながら寝入ってしまったが…
夕食もとらず
翌日まで10時間ほど眠り込み
どうやら
睡眠中に死と復活は済ませたようで
次の日
今度は仕事帰りに新宿紀伊国屋書店に寄って
またまた性懲りもなく
Zolaを買い足してきたのだった
Folio版の
La Fortune des Rougon(ルーゴン家の財産)と
Au Bonheur des Dames(御婦人がたの幸せに)
やけに面白そうなL’argent(金)は
買おうかな
買っとこうかな
買いたいな
どうしようかな
とさんざん迷ったあげく
買わなかったが
それは
版がそろそろ新しくなりそうだから
新しくなると文字が大きくなる場合が多いので
ちょっと待とうと思ったのだ
思ったのだ
思ったのだ
思ったのだ
で
言い忘れたのは…
そう
けっきょく
カレーは食べなかったということ
丸善ではしげしげとショーウィンドーのハヤシライスを見つめたが
やっぱりやめておいた
自分が食べたいのとはちょっと違っていたからで
やっぱりカレーはむずかしい
ほんとに
その都度その都度の時点で
ほんとに入りたくなるカレー屋を見つけるのは
むずかしい