2010年8月20日金曜日

いつか時は伝える

まぢかにも
遠くにも
満開になった桜
デッキチェアなんか持ち出し
ひさしぶりの陽射しのなか
桜に包まれながら
きみは本を読んでいる

花に釣られ
春に釣られ
ぼくたちのように
暖かさへとさまよい出た
花見のひとたち
ちょっとふらふらしながら
あの枝へ
この枝へ
回遊をやめない

こんな明るいひかりのなかでは
去っていったものごとも
すべて
あざやかに見える
思い出すまでもない
ひとつひとつ
どれも位置を得て
あり続けている
ふしぎよ

なんと明るい桜日…

すっかりくつろいで
そよ風も
陽も
花びらも
肌にうけとめて
本など
こんなふうに
開いていたこともあったと
いつかきみは思う

時はきっと伝えていく
おなじ心ばえの
未来の
あたらしい人たちへ
きみの
こんなすがたを
この一瞬のことを
陽も
花びらも
肌も
みずみずしく輝いていたと



(ぽ389号・2010年4月)

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