とうのむかしに亡くなった恋人のひとりは
白いシャツの似合う
大柄で豊かなからだの
あかるいひと
夏が来るといつも
そこらの街角から現われて
手を振るのではないかと思う
本人は得体のしれない鬱に悩まされ
感情や思考とからだの感覚とが切れてしまっていて
たとえば空腹になっても
空腹という情報が意識に上がらず
くたくたに疲れても
疲れたという情報が意識に上がらなかった
そんな日々が重なった末に
とうとうからだを壊して逝ってしまったが
「じゃね、また近いうちに!」と言い残したまゝ
連絡もとれなくなってフェイドアウトし
逝ってしまったことさえ
何年もしてからようやく伝わってきた始末
大柄で豊かなからだの
あかるい印象をぼくに焼きつけて
夏が来るといつも
そこらの街角から現われて
手を振るのではないか
ちょっと気分のよい夕方や夜中に
電話が来るのではないかと
いつまでも
いつまでも
新鮮に思わせ続けて
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