文学は報復ではない
とトリュフォー映画のなか
主人公の元妻は言うが
文学はまず報復でなければならない
いい子ぶって
万人向きの言葉のキャンディーを作ろうとすれば
報復は作者の魂を抉り続ける
じぶんのちっちゃなエゴが大げさに喚きたてるような
個人的な些細なことについての報復ではない
人間界というのはまったくどうしようもない汚泥の沼で
分け前のいいところに陣取った者は
何世代にも延々と玉座を確保しようとするし
そこから甘い汁のおこぼれを貰う者たちは
玉座にある連中を誉めたたえながら
一滴でも大目に甘美なネクターを受けようと汲汲としている
汚泥の中に浸かって使い捨てられていく者たちに
そのままでは浮ばれる機会などない
玉座にある連中とそのおこぼれ連中の首を掻き切り
子子孫孫までの種を殺し尽くし
先祖代々の遺産や業績を破壊し尽くさないと
汚泥人諸君が地上に這い出る機会は永遠に訪れない
文学芸術は報復であり
報復
報復
報復ののちに報復ではない段階も来るが
それはまたその時に考えればいい
あなたよりも多額の収入を得ている者はとにかく敵であり
あなたよりも年金収入が多くなるであろう者たちは敵であり
あなたよりも労働条件のいい者たちは敵であり
あなたよりも恵まれた家庭環境に生れた者たちは敵である
あなたが人一倍怠惰な生を送ってきて
それにくわえて降下嗜好があるならばしかたもないが
そうでなければあなたはこの既得権益社会によって軽視され
馬鹿にされ
より下層に底辺にと黙って押し籠めておこうと謀られてきたことになる
それがあなたの平和であり寛容であり知恵であると自負できるならいいが
弱虫で制度や慣習との戦いを怠けてきただけだったとももちろん言える
なぜ自分が抵抗しないのかを説明できる屁理屈を作り出すのは
人間の理性のお得意わざ
ニーチェをわざわざ繙き直すまでもない
最後の最後には運命という決まり文句で済ませられるなら
あなたには思考も文学も芸術も抵抗もいらない
けれども大学を出たばかりの友人になぜ家族からマンションがプレゼントされ
高級外車が婚約祝いにプレゼントされ
あなたはといえばごく若い頃にできたあんな美しい恋人との結婚もあきらめ
子供をはやくから持って私大ブランド幼稚園にベンツで通わせて
お友だちも年収数億のご家族だけに限るような育て方は不可能だからと
すべてをあきらめて20代も30代も過ごしてきた以上
報復しかないのだ本当は
最後は言葉や表象しかない
言葉も表象も効かなくなったら念しかないだろう
文学も芸術も宗教も報復である
日本にいるのも偶然ではなく
古代出雲で殺戮された者たちや
日本列島の各地で滅ぼされた者たちの怨念との繋がりを
あなたはそろそろ意識して強化すべきだろう
あなたは報復の権化になる
数千年に及ぶ怨霊たちがあなたの立つのをうぞうぞと待っているのが見えるか
ニッポン!、ニッポン!、大ニッポン!と叫んでみろ
古代からの怨霊たちが今こそあなたの隅々にまで集結し直そうとする