2013年10月21日月曜日

波に揉まれながら至福の思いでほんのわずかふり返る人びとよ






ひかりの濃薄の動きはわずかながら風を起こすので
いつも肌は地球のどこの地表とも同じように大気の揺られている
人間の粗い聴覚には聞こえないが
手の甲の上でさえ風音がつねに凄まじいのだろう

どこまで人間であるか
否か

むずかしい問題ではないがついに究極の答えは出ないので
行き当たりばったりでいつも行くしかない

風よ太陽よ大地よなどと
自然に人称を一時的に与えて呼びかける人びとがいるが愚かしい
人称にふさわしくないものに本当に呼びかけるすべはどこにあろう
圧倒的に日の出され日没されて満ち引きされて
されてされてされてされてされて
行く
というより行かされる他ないではないか

人間の意思など!
人間の意思など!

ここに巣穴を掘るかむこうの丘に掘るかを蟻が選ぶほどの
知力しかせいぜいないというのに
大宇宙の人間でございと自尊して本当に出来するものがなんだというのか

地下室の手記でしかないあらゆる詩歌を
砂浜の水際ぎりぎりまで引きずっていったとしても
波に身を洗われた瞬間にきみはすべてを自然に手放すだろう
たいていは黒い細い細かな線でくにゅくにゅと記し続けてきた人よ
人びとよ
記してこなかった人びとにしても音で声で宙に記し続けてきて
波にやがてはすっかり陶然と呑み込まれていく人びとよ

波に揉まれる前に音も声も線も手放してよかったかもしれないと

波に揉まれながら至福の思いでほんのわずかふり返る人びとよ


                           
   


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