韓国でのセレモニーの際
壁や床が大理石でつくられた
巨大な会場の外を
日暮れ時
歩きまわりながら
渡された小さな立方体を
弄び続けていた
明るいみどりの立方体は
それひとつでいろいろな操作ができる
最新鋭の機器だが
慣れるまでには時間がかかるし
あらゆる操作がすぐにわかるわけでもない
手のひらで弄りながら
発見していってくださいと
笑顔の開発者から渡されたばかり
それといっしょに渡された
おまけの平べったいマッチ箱様のものが
またずいぶんと面白く
みどりの立方体ほどの機能性はないものの
いったいなにができるか
出てくるか
わくわくさせられるような代物
なんと生きたアリが中にはいて
出口からときどき顔を覗かせるのだが
外に出てしまうことはなく
体を半分出してもちゃんと戻り
また顔だけ出したりしている
少なくとも持ち主が生きているあいだ
アリも健康に生き続けられるだけの
餌や生活環境が整えられているそうだが
この立方体ふたつで現代生活をほぼ支えられる
という機能性の塊のうちのひとつに
こんな生物を住まわせているのに驚く
しかもいざという時にはこのアリが
たいへん重要な役割を演じるという
ふたつを交互に弄びながら
照明で金色に染まったり白く輝いたり
青や紫の色の沼を作っていたりする
会場のひろい大理石の上をさまよい
冷えてきた夕暮れの空気を手の甲や
頸筋で楽しんだりしている
これが終わったらしばらく忙しくなるが
ふた月もすればまた少し余暇がとれるので
白亜の印象の美しいあの沿岸地域や
近代建築の林立するちょっと冷たい都会に
足をのばしてみたい気がしてきている
それはそれとして
セレモニーが済んだら明日あたりは
この都市のちょっとはずれの
古い木造家屋が密集する地区に寄って
ごくふつうの地元の料理屋に入り
ぐつぐつ煮える鍋やすこし辛い焼肉などを
ひとりでゆっくり食べてみたい
以前いったことのあるあの界隈の
あそこをああ行ってそれからこう曲がって
と頭はまわり始めていて
それがわかっているかのように
またアリが顔を覗かせてこちらを見ている
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