2014年11月16日日曜日

またアリが顔を覗かせてこちらを見ている

  


韓国でのセレモニーの際
壁や床が大理石でつくられた
巨大な会場の外を
日暮れ時
歩きまわりながら
渡された小さな立方体を
弄び続けていた

明るいみどりの立方体は
それひとつでいろいろな操作ができる
最新鋭の機器だが
慣れるまでには時間がかかるし
あらゆる操作がすぐにわかるわけでもない
手のひらで弄りながら
発見していってくださいと
笑顔の開発者から渡されたばかり

それといっしょに渡された
おまけの平べったいマッチ箱様のものが
またずいぶんと面白く
みどりの立方体ほどの機能性はないものの
いったいなにができるか
出てくるか
わくわくさせられるような代物

なんと生きたアリが中にはいて
出口からときどき顔を覗かせるのだが
外に出てしまうことはなく
体を半分出してもちゃんと戻り
また顔だけ出したりしている
少なくとも持ち主が生きているあいだ
アリも健康に生き続けられるだけの
餌や生活環境が整えられているそうだが
この立方体ふたつで現代生活をほぼ支えられる
という機能性の塊のうちのひとつに
こんな生物を住まわせているのに驚く
しかもいざという時にはこのアリが
たいへん重要な役割を演じるという

ふたつを交互に弄びながら
照明で金色に染まったり白く輝いたり
青や紫の色の沼を作っていたりする
会場のひろい大理石の上をさまよい
冷えてきた夕暮れの空気を手の甲や
頸筋で楽しんだりしている
これが終わったらしばらく忙しくなるが
ふた月もすればまた少し余暇がとれるので
白亜の印象の美しいあの沿岸地域や
近代建築の林立するちょっと冷たい都会に
足をのばしてみたい気がしてきている

それはそれとして
セレモニーが済んだら明日あたりは
この都市のちょっとはずれの
古い木造家屋が密集する地区に寄って
ごくふつうの地元の料理屋に入り
ぐつぐつ煮える鍋やすこし辛い焼肉などを
ひとりでゆっくり食べてみたい
以前いったことのあるあの界隈の
あそこをああ行ってそれからこう曲がって
と頭はまわり始めていて
それがわかっているかのように
またアリが顔を覗かせてこちらを見ている




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