2016年10月25日火曜日

(すべきだったのに…)



わたしの作ったビスケット、
いかがかしら…と
きれいな小箱に詰めて、華子さんが
くださったので

中がこわれないようにと
ていねいに持ち帰って

すぐには開けず
テーブルに置いたまゝ

服を着替えて
手も洗い
口も漱いで

ちょっと
お茶でも飲もうかと
湯を沸かし

くつくつ
ぐつぐつ

湯が煮え立ったので
アールグレイは朝しか飲まないので
茶葉のよいダージリンを淹れ

熱々でもあるし
ゆっくりと
啜り啜りしながら
小箱の表面の
どこか
少し寒い国の温かみのある絵柄のような
細かくもあり
ちょっと粗いところもあるような
文様を見ていると

思い出した

一昨日
比呂美さんから貰った
たった一包みだけの
オーツクッキーを
一昨日着たジャケットのポケットに
入れたまゝだったのを

あわてる必要も
ないのに
なぜか
ちょっとあわてて
箪笥のところまで取りに行き

あった!

ポケットから引き出してみると
透明のセロファンの中の
ちょっと大ぶりのクッキーは
ばらばらに
欠けてしまっていた

それを台所に持ち帰って
お茶を前にして
華子さんのビスケットの箱を前にして
坐りながら
包みを開けもせず
しばらく
眺め続けた

涙が出てきたのです

比呂美さんは
昨日
どうしてなのだか
自殺
したのでした
から

まだ
華子さんからの
ビスケットは
開けないでいます

お茶は
また
啜りました

比呂美さんと
なにか  (すべきだったのに…)
十分なつきあいを  (すべきだったのに…)
しないで  (すべきだったのに…)
いてしまった  (すべきだったのに…)
そう
感じます

お茶は
また
啜りました

また
啜っています




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