2021年9月1日水曜日

あゝ、あの人から買ったんだったなと

 

 

ひさしぶりに喪服が入り用になった

 

秋冬のものは持っているが

夏用の薄手のものはない

分厚い生地の喪服を

暑いなか着続けるのはつらい

 

近くに何軒か紳士服のチェーン店がある

よさそうな丈のものがあったが

裾上げの仕上がりが葬儀に間に合わない

生地がぺらぺらなのも気に入らない

しかも夏用というわけではなく

ぺらぺらな生地のくせに秋冬用だという

 

結局あらたに買うのはやめて

持っている喪服で間に合わせることにした

出してみると重みがあって

夏場の暑い戸外ではどうかと思われた

 

上着を着ずにネクタイもせずに寺に向かい

葬儀の前になって調えるようにしたら

本堂内は冷房が効いていたこともあって

案外と苦もなく過ごすことができた

柩を抱えて霊柩車に載せる際にも

遺影を抱えたり遺骨を抱えたりして

外を少し歩くような際にも

それほど暑くも感じずに過ごすことができた

 

この喪服はどの機会に買ったものだろう

そんなことがしきりに思われて

霊柩車の中や遺骨を抱いてのタクシーの中で

着ている喪服の思い出を頭にめぐらした

 

三軒茶屋の西友で買ったのははっきりしている

叔父のひとりが亡くなった時だっただろう

大腸ガンでもうだいぶ悪いと聞いていたので

そろそろ作っておこうと思ったのだった

三軒茶屋二丁目に住んでいる頃で

まだウォールマートになっていなかった西友は

適度な雑駁さとそこそこの品揃えが

便利でもあれば親しみやすさもあってよかった

男性衣料品売り場は3階にあってけっこう広く

Tシャツや下着やソックスの類から

スーツやジャケットやコートやネクタイまで

とりあえずはなんでも揃うフロアだった

 

手頃な価格のジャケットなどはいくつか買ったし

家からは十分以内という近さもあって

食料品を買うついでになんとなしに見に行くので

挨拶などまではしないものの

売り場の店員たちとは顔なじみだった

身体の寸法を測る必要のある際には

いつも同じ中年の女性店員が来て測ってくれる

和装ふうの髪型でスッキリと耳出しし

後ろに引っぱり加減にして髪を纏めていた

 

あゝ、あの人から買ったんだったなと

ひさしぶりに三軒茶屋・西友の

F紳士服売り場のすみずみまでが蘇り

私が三軒茶屋にいた2009年8月20日朝までの

三軒茶屋のあらゆる細部までが犇めき出して

霊柩車の中でも遺骨とともにでも

私は懐かしく幸福だった!

三軒茶屋時代の私の片鱗さえ知らない

遺体と遺骨の主の間近にあり続けながら!




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