2012年10月27日土曜日

ミカエルが風呂から上がってくる




冷たくなったコーヒーを飲み終えるまで――

押し入れの奥の樫の大木が綿のように
ふいに柔らかく、その後すぐにこわばり、星が心の梁にかかる

―だれが運転していくの?
―そりゃあ、マギーさ

ぼくらはまだ台所に静まっている
雲行きがあやしいのに帆船のおもちゃを出しっぱなしにして
冷たくなったコーヒーを飲み終えるまで
ミカエルがまた風呂に浸かっている
運命の縁のうぐいす

―ぼくじゃない。ぼくじゃないんだ。

…まだ台所に静まっている。テーブルに
姿勢正しく座って、呼吸の音さえ抑えながら
(そう、うるおいが戻ってきている。言葉のひとつひとつに…)

少年期までの顔の陰はみずみずしい。やわらかくて…

取り戻す、という発想はしないまま…

いつまでもいる
何十年も経ったはずだろう?
なのに、まだ台所にいる
ぼくらはまだ台所に静まっている
雲行きがあやしいのに

…天使たちは通過?いつも、天使たちは
他人だと思い込んで

葉を毟りたくなる癖はしだいに落ちていって
少年は少年を卒業していく
そうして気づく、来たことのない道に
出たのを

道さえなく
足さえなく

ともすれば足は地面に根を下ろしたがり
すぐに硬直しがちになる
根の足で歩けるか
根は歩くか
歩く足は根ではありえないか

―いいよ、ぼくは歩いていく

小さな
細い川まででもいい

歩いていく

ミカエルが風呂から上がってくる

目をもう一度閉じて
また開ける

かぼそい
温かい
その時間のあいだに


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