がらがらの昼のメトロ
優先席に
お母さんと
子ども
あたまにバンダナを巻いた
まだまだ若いお母さん
眠くて眠くて
ぱんぱんに膨れたビニールバッグを
倒れないように
両足のあいだに挟み
膝には他のバッグを乗せて
子どもの話に応えながら
目は小魚のようにゆるゆる泳いで
すぐに寝入ってしまう
子どもはガシガシ
ギシギシ
ギーギー
ギュウギュウ
やかましく音を立てつづけながら
山手線の模型を
窓のわきの台に走らせ続けている
うちに帰ったら
なにかやりたいことがあるらしい
ロボットのような日本語で
ようやく順番に並べられるようになった
単語と単語をぎこちなく話しながら
帰ったら
お母さんとなにかしようと
言い続けている
けれども
力いっぱい押しつけられながら
前後に走らされている電車模型の
ガシガシ
ギシギシ
ギーギー
ギュウギュウ
のせいで
お母さんの耳には
よく聞こえているのだか
いないのだか
途中から
子どもに反応することもなくなって
口をぽかっと開け
座ったまま
お母さんは眠りの世界
ちょっと
頬にうす紅を挿しているから
むかしのハニワのような顔になって
荷物はしかし
ちゃんと支えながら
ぽかぁっと
お母さんは眠りの世界
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