本当はもう何も批判すべきものもないように思うし
礼賛なんて
一場のおふざけでしか
したこともない…
寒い冬の大きな墓地から帰ってくる途中
降ってきた雨を避けて
誰も客のいない茶屋に入りました
運ばれてきた茶の湯気を見て
―あゝ、わたくしこそ本当に幸福だったではないか…!
気づきながら
まるで熟練の賭博者が脳裏に思い見るように
今後のおりおりの切り札のように
何枚も何枚も
深く知った故人たちの面影の心のフォトを
捲り直していました
そうしてわたくしは
ふと
このところ絶えてしたことがなかったように
丁寧に髪を梳かしたくなった!
化粧室と呼ぶほどのものが茶屋にはなかったので
お手洗いの脇の暗い鏡に向かい
ながらく鞄の底に入れっぱなしにしておいた古い櫛で
丁寧に
丁寧に
特に額の右上あたりを撫で付けたのでした
本当にもう何も批判すべきものもないように思うし
礼賛なんて…
と記し始めたのが
この書き付けだったのです
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