「友だち、いっぱい居ますか?
と聞いてきたから
「ひとりもいないよ
そう答えると
笑い出しそうな
驚いた顔に一瞬なり
若い子は
けっきょく
絶句した
はじめての飲みの
ふたりの席で
こんなことを聞いてくる
だけで
もう
この若い子は
ハズレ
友だち候補からは
なにもかもが
曖昧に始まっては
曖昧に実って成熟していく
そんな世代に
属していたものだから
友だちにしても
恋人や
愛人にしても
はじまりは茫々として
宣言じみたことなど
もちろんなく
とほうもなく長い時間を
だらだらと
あるかなきかに
空気のように
無のように
寄り添い続けて
ていねい語のメッキなど
いつのまにか
こそげ落ち
剥がれ落ちて
相手の飲み止しに唇をつけていたり
からだを重ねていたり
股を閉じもせず爆睡していたり
本一冊を相手が選ぶのに
ながながと棚から棚へ駄本を眺めつつ
たらたらと待ち続けていたり
そうするうち
こいつと自分は
友だちと呼べる状態かもしれないとか
恋人っていうのはこんな感じなのかとか
愛人というには
まだ倦怠感が
足りな過ぎはしないかとか
じぶんの外で
関わりのあまりない
祭りの音曲のように鳴っている
手触りの不確かな言葉が
使っていいものか
かえって
不便になりかねないか
気持ちのなかに
ゆらゆらし出すようになり
ぺたぺた
いろいろな思いの曲がり角で
まとわりつくようになり
やがて
曖昧さを大いに残したまゝ
清水の
ちょっと小さな舞台から
飛び降りてみるようなぐあいに
使いはじめてみたりする
「じゃあ、友だち連れて、こんど行きますよ
「恋人? いる、っていえば、いるかな…
などと
その場しのぎの
便利アイテムとして使ったり
相手といっしょに出かけた温泉の
男湯にひとり浸かって
(愛人との温泉行ってやつか…
などと
ちゃぽちゃぽ
肩や腕に湯をかけてみていたり
しかし
ものは皆
成長し
成熟をむかえて
やがて実を落したり
立ち枯れていったりするのが倣い
生活や仕事のあまりの違いや
感じ方や思い方の
開くいっぽうの亀裂
価値観や判断のしかたの掛け違いには
友だち
なるものはめっぽう弱く
髪の抜け落ちるぐあいどころか
鳳仙花の種の弾けるような勢いで
ぱあんと飛び散って
離れていく頃あいを
やがて迎える
恋人は順調に実りでもすれば身内に移行し
愛人はそもそも
どこかの出先のショップで見つけて
当座しのぎに買った衣服
着つつ馴れにし
とはいえ
あまりにくたくたになれば
どこかで取り換えるつもりのビジネスライクと
いつも
さびしく
気づいてはいる
友だちなんて
「ひとりもいないよ
と即座に言える
爽やかさは
ちょっと
旨い
ハイボールや
ジントニック並みで
じぶんとしては気に入っているが
「知りあいなら、ワンサといるけどね
と時にはつけ加えるのが
はたして
メメシイかどうか
ちと迷う
知りあいか
友だちか
その差というのは
たぶん
長い闘病入院の際に
下着や寝巻を自宅で洗ってきてくれるかどうか
毎日のように顔を出して
「まったく此処の病院ってさァ…
とひとくさり
くど過ぎない程度の
批判精神の濃茶を
数分
点てていってくれるかどうか
数十分ではいけない
微妙な
時間配分の
お手前
「そんなのが
「友だちだろうけれど
「今いるの?
「将来いそうかな?
「家族でも
「恋人でもなくてだよ?
などと
聞いてやろうかと思ったけれど
やめておく
知りあいでさえ
まだない若い子だから
知りあいになっていくのさえ
数年はかかる
何十回の
意味もないようなコーヒータイムや
はしご飲みや
時間ばかり浪費する
彷徨を経ての
知りあいだから
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