歌おう
まずはヘリコン山のムーサたちのことを
偉大で神聖なヘリコンの山の
主である彼女たちのことを
青き泉のあたり
柔らかい足で踊る彼女たちのことを
歌おう さらに
クロノスの全能の子の祭壇のことを
彼女らが華奢な身を洗うペルメソスのことを
あるいは馬の泉のことを
あるいはオルメイオスのことを
ムーサたちが
ヘリコン山の頂きで
なんと美しく可愛らしく踊ることを
足どりもはつらつと動くことを
ヘーシオドス『神統記』
気持ちのよい言葉のほうへ飛ぶ
思いを いい香りのする水のやさしく出るシャワーは追って
ちょっと引き留める ヘリコン山の真上で
マシュマロのような指で
まだ幼い蟷螂の鎌のようなやさしさで
ムーサたちの裸身を
ヒッポクレーネーの泉に先に身をひそめて
待ってみようか
おお、小さくてもすてきな贈り物を
忘れてきてしまった! 持ってくるべきだったのに!
携えてきたのは そのかわり 一年半だいじに飼っていた
子ネズミの小さな生首!
一年半経っても子ネズミのままの
貴重なネズミだったのに 蜜丘マリアの手を煩わせて
極薄のメスで斬首させて 天鵞絨の敷かれた指輪ケースに入れて
さらに小さな桐箱にも入れて
だいじにトランクの底に入れて持ってきた
長旅のさなか トランクの底から
ときどき聞こえてきた鼻歌は
子ネズミの首の歌う
意味のよくわからないあかるい歌
蜜丘マリアの切りようといい 極薄のメスのやわらかいほどの
心地よい切れ味といい
子ネズミには快楽の極みであったようで
首は歌っているのだ!
いっこうに死ぬ気配もなく 意識を失う様子もなく
ちょうどいい温度の風呂に浸かって
幽冥のさかいに揺蕩うように
蜜丘マリアの斬首作業に立ち会った下僕
アショーカ皇帝の言うには
ほんのわずかの血さえ
子ネズミの首の切り口からは
洩れなかったそうな
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