2022年11月15日火曜日

“うゎっ、風だ、生きなきゃ、ね、…” 生きなきゃ、ね、


 

 

午後は ずっと 浜辺にいたので

愛ちゃんは ロングフェローのラテン語訳に 親しむ

時間もとれただろう ぼくちゃんは

軽い詩集を 片手に 持って見ている 愛ちゃんの

腿のあいだに まなざしの指先を

ちらちら 滑らせはしながらも それ以上露骨には

進ませずに 来たるべき 26世紀の

軽くて 滋養に富んだ 平均的食生活を 構想しながら

二度と来ない この愛ちゃんタイムを

取り逃さないように ピッキリ むちむち

生き尽くそうとして 暗誦できる部分を 潮騒の

絶えることない プチ轟音に 負けじと

叫びはしないものの 嘆き節がちに ちょっと なって

愛ちゃんの唇に 唇を 近づけて 歌うように

 

Not enjoyment, and not sorrow,
  Is our destined end or way;
 But to act, that each to-morrow
  Find us farther than to-day.*

 

ラテン語と古典ギリシャ語しか わからない 愛ちゃんだから

もちろん 英語なんてわからないから

だいたいの訳を すぐに 呟き寄せるようにして

 

 楽しみじゃない 悲しみでもない

ぼくらに定められた 目的とか 道ってのは

そうじゃなくって 行動することなんだよ

そうして 来る明日 来る明日

今日よりも 遠く深くに進んだぼくら自身を

見つけていくんだよ

 

言いながら 愛ちゃんの ヘリオガバルス朝ふうの

薄絹ミニスカートの 薄い青緑と薄いピンクの

大きめの水玉模様が いくつも ポカポカ入った

スケスケ生地を ふわっと 膨らまして

“風立ちぬ、いざ生きめやも…”

じゃなくって

“うゎっ、風だ、生きなきゃ、ね、…”

生きなきゃ、ね、

と 慌てて 言い直しながら ヴァレリーの

 

Le vent se lève, il faut tenter de vivre **

 

を愛ちゃんの やわらかリップに ぼくちゃんの

リップで届ける 午後遅い浜

 

 


 

 

 

*Henry Wadsworth Longfellow 《What the Heart of the Young Man Said to the Psalmist

**Paul Valéry : Le Cimetière marin






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