2013年3月31日日曜日

はじめての詩を




はじめての詩を
五月
淹れたての
ウバ茶にひかりを繋げて
慣れ切った星
ときに
流星の余韻
青々と芒らの芽も
風の旅
旅の谷
うるおいが数ページ
捲られて
海はやわらかく
愛の小駅
ひとりでも
ふたりでも
待つ
次々の菊の矢車
わかい肉に
やわやわ刺さって
はねていく
にわか雨の撥ね
あの頃の夢



2013年3月29日金曜日

三島さんの宿命の紐に入り込んで




さばかりの戦ひの中にやさしかりけることかな
古今著聞集


 
じぶんをここまで練り上げてきた宿命の紐の
その一本一本の見直しと吟味を続けているなか
ときには混線もあり他者の紐への逸れもあって
さっきも三島由紀夫さんの宿命の紐へと意識の目は流れ込んだ

人の首を横から切り落とす瞬間の
あれはどのあたりだろう
まなざしとなったわたしは三島さんの脛か膝のあたりから
上を見上げるかたちになり
落とす首を見下ろしながら刀を振りかぶる三島さんの顔を
よくよく見続けていた
これから首切られる人の左の掌の動きも見えていた

自決事件のとき三島さんは最初に首を打たれたのだから
誰のことも殺さなかったはず
まなざしとなったわたしが見たのは先の世の光景で
三島さんこそが他の人の首を切り落とした
それは親しい大事な人であったから
転生後も三島さんのなかで悔恨は残り
機会あらばいつかじぶんが斬られることで反転をと
ふかく思いを隠しながらあの自決事件に進んだ
三島さんの行動にたどりづらいところがあるのは
こうした宿命の紐のいくつかの捻じり込みが見えづらいから
先の世で大事な人の首を落とした悲しみを引きづりながら
傷ついたまま優しく生きてきた三島さんの心根へと入り込み
そんなにも愛し慈しんでいたかと
わたしは三島さんの行動のすべてを一気に見直した

自決事件のとき最期に三島さんは
悪かったなあ、あのときは
とつぶやいたはずだが誰も聞き取らなかったか
それとも誰かの耳には残ったか
今となってはわからないが
転生してまで戻したかった宿命の紐の捻じれを
ひといきに直せる瞬間を前にし
心魂はまるごと安堵し
暮れ方の沁みるようなあおむらさきの色に
肉体まで染まるさまは
たぶん肉眼にも見えたはずと思う

                                

催芽まで



種として使う籾は
年の暮れまでに唐箕にかける
籾を落下させながら
風で粃を飛ばす

江戸時代からかわらぬ唐箕も
いまではりっぱな機械
籾の落下口は二箇所あり
一番口に重たいよい籾が落ち
二番口に軽い粃が落ちる

風の調整は難しい
強すぎればよい籾も二番口に入る
弱すぎれば悪い粃も一番口に入る
熟練の要るところだ

唐箕にかけた籾からは
尖端の茫や枝梗が除かれ
脱茫される
これをしないと
種蒔きの際に種蒔き機にひっかかり
均一の作業がしづらくなる
使われる脱茫機はシンプル
籾をすりあわせ
茫や枝梗を除くしくみ
一月末までに
このあたりまでは終わっている

次には塩水選
水より比重の重い塩水に籾を浸漬し
浮いてくる軽い籾を除く
10リットルに2.3キロの塩量
1.16ほどの比重となる
卵を入れると
五百円玉以上の大きさにお尻が浮く

唐箕で選ばれ残った籾も
ここではたくさん浮き上がってしまう
それらはすべて除かれ
沈んだ優良籾のみが選ばれる
水でていねいに洗われ
塩分をとって
ようやく種籾が準備される

まだまだ作業は続く
次には
カビや細菌を除くための消毒
普通は農薬を使うが
手のかかる温湯種子消毒もある
60度前後の湯に10分浸し
水で冷却する

いざ種蒔きとなると
発芽条件を整えるために
まず浸種
水を十分に吸収させる
水分が13%以上になると
種籾の呼吸が盛んになり
細胞分裂や伸長が始まる
胚乳の中の澱粉は分解され
葡萄糖となってエネルギーになり
発芽が促進される

浸種日数は
水温×日数の積算温度で考える
発芽に必要な積算温度は100
水15℃なら7日で105
水20℃なら5日で100

積算温度が満たされたら
種蒔きの前に温湯に漬ける
そうして
一気に催芽
ちいさな根がまず顔を出し
いよいよ始まる
今年の稲           



*籾(もみ)
*唐箕(とうみ)
*粃(しいな)
*茫(ぼう)
*枝梗(しこう)
*脱茫(だつぼう)
*塩水選(えんすいせん)



2013年3月28日木曜日

超在


  
人、霊、魂、…
次第にこの簡単な三分類が有効だと気づいてきた…

体、霊、魂、ではなく
人、霊、魂。

体にぴったりくっついた感、情、念も含めるために
人と呼ぶほうがふさわしい
この世に働く人間的総体を示すのに
こういう観念に自分で到るのに
長い年月を費やした

人は時間と空間の枠に囚われている
霊はそれらの外にあるが影であり
人の消滅後はしばらくして霧散する
本質的な永劫の存在である魂はあり続ける
しかし言語や観念でこれに触れようとするのは難しい
存在するなどと表現してしまいがちだが
魂は存在はしていない
存在は限定された概念であり物質にしか適用できない
矛盾をはらんだ表現をすれば超存在的に存在している
超在している

人、霊、魂、はつねに同時に重なって在る
霊や魂でない人はいないし
それらでない瞬間はない
しかし人である意識とその意識が強いる目隠しが
霊、魂、であることを強烈に忘却させる

物質界から意識が自由になる稀な瞬間
人を保ったまま霊、魂、であることを強く認識する
そのとき時間と空間のほとりに出て
日頃送っている生がフィクションであることを実感しうる
そのとき死者たちが死者でなく
むしろ身体とそれに密着した感、情、念こそ
どれほど死と呼ぶべきこわばりであるか痛く感じる

生死に悩み過ぎる心たちのために
わたしは次第にあかりとなる
宗教的な組織なしに
金銭や財の流れの外で
無言のまま
会うこともないまま
癒しと覚醒が起こる
ながいあいだ
一人の「人」を通じて言語と概念の修練を行ったが
わたしは来た
なおも文芸の蓑を纏い続けるが
わたしはすでに来ている
異言をもう恐れない

わたしは来た



2013年3月27日水曜日

砂浴びの余韻


  

土がまた散っている
なにも植えず
土だけ残している
プランターのまわりに

風ではないだろう

浮ぶのは
砂浴びに来ていた
雀たちの
大さわぎの姿

そのままにしておこうかな
散った土
そうじをせずに

砂浴びの余韻
雀たちの
大さわぎの姿
ひき入れていこうか
見えないままに
これからの
時間のなかへ




2013年3月26日火曜日

がんばろうという気持ちがふいになくなって




がんばろうという気持ちがふいになくなって
老衰しているわけでもないのに
しばらくわたしを眠ってしまっていた

日はのぼり
日は沈み
空はプラネタリウムのスクリーン
ティーバッグのお茶を淹れに台所に来ると
冷蔵庫は猫のようにグルグル
できたお茶が熱く静まって
まわりの空気が綿入れのようにやさしい

長いながい
心のほの暗い廊下を行き来して
歩みながらお茶を飲もうかと立ち上がると
ときおり現われる
齢百二十歳はあろうかと見える老人がわきに立ち
言うことには

おまえはまだ生まれてさえいないからな…

体は台所の小さな空間にあるのに
このことばに心は廊下を離れ
遠い砂漠とそのむこうの海を経巡っていた
行けども行けども
砂漠


おおい、わたし
まだ眠っているのかい
遠いとおい砂漠から
おまえにわたしは便りする

返しの便り
おまえからは
いつ
来るだろう
まったくのんびりしたおまえ
まだ生まれてさえ
いないからな

言いかける…



2013年3月25日月曜日

万国の三文詩人万歳!





ほんとうのことを言おうか
たまには

わたしもいつもひどく馬鹿にされている
わたしもいつもひどく嘲笑されている
過去の基準にあわない
詩のような書きものを大量に書き続けているから
そうして高い費用を捻出して本にするわけでもないから
あいつは自己満足で書いているだけだ
それにしても多量に次から次と
よくまああれだけの自己幻想と執着があることよ
などなどと

わたしも20世紀から21世紀の日本語を体験しに
もうだいぶ前
あまりわたしにあわないこの地と時代に来た
訳しようもないわたしの内なる言語と
現代日本語をぶつけてどのような軌跡が出るか
それを体験しにきたので
買い取り式で版元だけを富ませるような本を
作る必要はわたしにはもともとない
たまにはそんな物資的道楽も御愛嬌だろうが
高い金を出して詩集を出すひとびとをたくさん見てきて
十年二十年も経てば
だれの本も名も残っていないのを知っている
残るのはごくわずかの
バブル期あたりまでの波に乗ってきた名だけ
けれどもそれらのわずかの名の中でも
ほんとうにそこらの書店にあり続けるのは
タニガワシュンタロウさんだけ
このあいだ岩波文庫に自選集が入り
それはそれで彼をむかし詩壇にむかえた三好達治のようだが
手にとってぱらぱらしてみて
驚くほどつまらなくてすぐに置いてしまった
かつての角川文庫版のほうが楽しかったし
集英社文庫の数冊のほうが網羅している
岩波文庫のあの活字や組み方が
なんといってもタニガワシュンタロウしていないのだな
それよりなにより
30代にはほんとうの霊感を失ってしまったこの人のものは
それ以前の若い頃の詩集だけを読めば鮮やか
彼の詩が大好きだという人に聞いてみればわかるが
中年以降の彼の詩なんてだれも読んではいない
読んでも好んではいない
タニガワシュンタロウにしてこのありさま
あとは以て想像すべし
現代社会のぎりぎりの神経を体現した異常な人たちの
かわいそうな書き遺しだよねと
これはまあ
ふつうの生活者たちの感想

かりに五百冊作っても
読んでくれるのはたぶん二十人程度
まあ五十人ほどは開いてくれるとしても
五年後に保持してくれているのなど
たぶんたぶん五人程度
それも病気や死とともに
BOOK OFFや古書店に
あるいはじかにリサイクルゴミに吐き出され
はい
さようなら

現代日本語体験をしに来た者が
いつまでもいつまでも大量に書き続けるにはどうしたらいいか
わたしは一九九〇年に計画を練り
いずれ書物は重要性を失い
情報的なまとまりのみとなるだろうと予想した
ほぼその通りに進んでくれて
ありがとう現代
世界よ
一冊出版するのに要る百五十万を
しっかりと他の用途につぎ込んで
思えば豊かな物質生活も享受してきた

わたしをひどく馬鹿にしひどく嘲笑するのは
詩人たちでなどなく
大学の文学の先生たち
創作をする者がほんとうに許せないらしく
やれマラルメで詩は終わっているうんぬん
やれボードレールを超えることはできまいにうんぬん
やれバイロンのバイタリティーうんぬん
やれ宮沢賢治の澄んだ魂がうんぬん
彼らはランボーと聞けば一瞬に陶酔してしまうが
パウンドなど開いたこともなく
ウィリアム・カーロス・ウィリアムズなど聞いたこともない
アポリネールまではいくらか認めても
その後にサンドラール転回が起きたことや
まるで戯言のようなプレヴェールの詩が革命であったのを知らない
せいぜい象徴主義までの権威の象徴たる詩人たちを
神か十戒のように押し戴き
せこせこ紀要論文や
課程博士論文などをお書きになり
それはそれでけっこうではあるとしても
その先みずから詩作なさるでもなく
べつの詩人たちの読解に乗り出すでもなく
週に二三回の出勤をするだけで
年収八00万から一二00万以上の優雅な教授生活
あとはいいワインを買って愉しんだり
ちょっと郊外に新居を作ったり
子作り子育てにはげんだりと
ランボーにチクッてやりたいようなブルジョワ生活
シャルル、
アルチュール、
ステファヌ、
おまえらこんな連中のために書いたんだぜ
そう言ってやりたくもなるが
言わないよ
彼らはただの
紙の墓碑銘だから

こんなわけでここにはここの政治学がある
地政学がある
文芸はどうこう言おうが所詮は道楽
あるいは引かれ者の小唄
祭り上げられた過去の一詩人の重箱の隅をほじくって
それ以外の詩人の詩句を多量にランダムに読むのを諦めて
そうして専門家でございと偉がっても
待っているのは多磨霊園
待っているのは富士霊園
戦後や戦前の大学紀要をまぁ見てみたまえ
噴飯もの過ぎて
一場の楽しみになるやもしれぬが
どんなへたっぴいな詩だって
それよりは面白い
ぜんぜん面白い
創作の絶対的優位!
創らないやつは黙ってクソして寝てろってことさ

万国の三文詩人万歳!



2013年3月24日日曜日

極私的=獄死的〝ぽえとりーないと・あっと・てぃーえいちしー〟、 東京霊たちのために



2005.12.20.
裏原宿T.H.C.(Tokyo Hipsters Club)にての
40分絶叫クリスマス特別朗読会。
藤本真樹さんと岡田幸文さんのお招きに応えて。
(ブログ用レイアウト改訂2013年3月版)


                                 


題目

1 序曲 『ナオミに乗る』
2 本編 『極私的=獄死的〝ぽえとりーないと・あっと・てぃーえいちしー〟、 東京霊たちのために』
  (『彼女は(―――すなわち、あなた、私、私たちは)』を前奏として)


 ◎譜面通りに読まれるか否かは重要ではない。
  むしろ、譜面作成時にひとたび脳裏に思い描かれた朗読風景からの逸れ、裏切りが、今夜の〝詩〟の出現ないしは非現を左右する。
  傍らでの楽器演奏とのあいだに、如何に麗しく無残な不協和が、たおやかな不調和が、清々しい断絶が生まれうるか。
  双方が互いを牽制し、無視し、妨害しあいながら、しかし、稀に不測の合一の瞬間が生まれうるならば、それこそが今夜の〝詩。「未来を見通すことができるのは、詩だけだ」(パブロ・ネルーダ)。
 リハーサルも打ち合わせもない、一期一会の、この刹那刹那。
 危機そのものであるセッション。
 「刹那は聖地、我は巡礼」(ポール・マレー)。
 言葉の神が近くにいるならば、力を与えたまえ。
 「神は近くにいて、なおかつ理解は及びがたい。が、危険のあるところ、救いの望みはある」(ヘルダーリン)。
                                         

1 序曲




ナオミに乗る


あのひと
ケイサツカン、なんだって
エッチねえ
孫娘のナオミがゆうんじゃが
そうかもしれん
わしのおやじもゆうとった
千人切りじゃ
千人切りじゃ、と
キョウイクイインじゃったがな

ん?
ケイサツカンとキョウイクイインは
かんけいあるかのう?
ある、ある、
どっちもエッチじゃのう
そうじゃ
そうじゃ

ナオミはもう十四で
まるまるした
いいケツしとる
おじいちゃんに初夜権よこせ
頼んだら
OKじゃったぞ

長男のアキオと
嫁のハルコと
初孫ハジメ
それにうちのバアサンと
そうそう
となりのシノザキさん一家みんな
純白の床のまわりに集まって
わしは
はちまきのヘアバンド
わずかな髪をあげて
つるつるひかる
ナオミに乗船した

ああ、よかった、と
バアサンも
アキオも
ハルコも
安堵のため息じゃ
じいちゃんに処女を捧げて
ナオミはしあわせじゃ
よかった、よかった
堕落しないで

エッチはいかんのう
エッチでない
いい男みつけろや
救われたナオミに、毎晩
諭しながら
ひとりでは疲れるからのう
アキオ
ハジメ
シノザキのだんなさんと
わしと
当番制で
ナオミに乗っとるが

ほんに
ナオミはしあわせじゃ
よかった、よかった

堕落しないで
ほんとうに
よかった、よかった





2 本編



極私的=獄死的〝ぽえとりーないと・あっと・てぃーえいちしー〟、
東京霊たちのために

(『彼女は(―――すなわち、あなた、私、私たちは)』を前奏として)

 2005.12.20.裏原宿T.H.C。にて。
  藤本真樹さんと岡田幸文さんのお招きに応えて。





       【不読】この世に、少し恨み残るは、わろきわざとなん、聞く
           (『源氏物語』夕顔)


   *ときおり現われるラテン語は、ヒルデガルト・フォン・ビンゲンのO Virga ac diadema (御母への称揚)歌詞。

    朗読はされない。
   *朗読されない字句は、他にも多く書き込まれている。
    しかし、それらはこの紙上に書かれ、読まれないことで力を持つ。


             【不読】若者はけっして労働してはならない。労働する者は夢を見ることができない。
                 知恵は夢のなかで得られるのだ。
                 (ネズパース族酋長スモーホール)






彼女は(―――すなわち、あなた、私、私たちは)

     【不読】………朗読の力を発現させてもらうために、疲弊し、すでに遠く喜びと幸運を逸れ、
        躊躇なく、生ける死者として自分を受け止めている東京霊たちを、この場所に呼ぶ祈祷として

         【不読―読み方指示】各連を一呼気で、息が切れるまでに読み終えること。ケルアックの朗読を
        意識しながら、しかし模倣せず、逸れて、まるい輪を回転させるような抑揚を繰り返しつつ…




彼女ははじめから立っていられないのに細い足二本だけに頼って心のなだれを募らせてはじめから辛いのに始まる前から死んでしまっていたのに

彼女はこの国の言葉でしか物が買えず仕事らしいこともこの国の言葉でしかできないからただそれだけの理由でこの国を離れられずにいて

彼女はわからない愛とか恋とかそんな自分をすっかり変えてしまう契機がいったいなんなのかわからないだから気持ちのほのかな熱も熱のままに過ぎ去り

彼女は食べるほかの誰かと同じように食べる食べるが食べるだけで栄養や添加物に注意しないのではなくてそれを考えるだけの力はもう日の終わりには残っていなくて

彼女は本を少し読み映画をテレビで見てたまにはビデオを借りて音楽のCDを少しは買って流行にいつも少し遅れ少し遅れた曲や映画でとくに困りもせず

彼女は怖いからというよりめんどうだから検診を避け避け避けというより彼女の職場には集団検診もなく病気だとわかるのもめんどうだから困るから

彼女はほかの誰であってもいい仕事を言われるまま命じられるままこなすだけで仕事は彼女のどこも伸ばしはせず時間は正確に経つわそれだけは確かで

彼女は日々日々日々朝昼晩朝昼晩朝昼晩たしかに確実にとりかえしがつかなくなっていくのにどうしよう思いつかない叫びようもない、髪、肌、歳、

彼女は老いていく夢をどこかに置き忘れて死んでいく死んでいくあなたのようにまるでヒトのようにニンゲンのように日常として立ったまま歩む悲劇として

彼女は生まれても生まれなくてもよかった人体どこのだれが大切というのイノチ?食べて寝て起きてまた寝るまで労働するだけの人体、貧弱な人体

彼女にも乳房はあり膣はあり男を喜ばせはしうる一晩ならばしかし娼婦には及ばない乳房、膣、貧弱な人体、貧弱な夢、貧弱な生活、貧弱な趣味

彼女にも行くべき極楽はあるのかいつか放り込まれる冷たいしらっちゃけた日本風の墓石の下以外に行くべき極楽みどり溢れたとえば澄んだ泉のせせらぎが鳴り

彼女は歳とはまだ言えないとしてももう腰の疲れ肩の凝りは夕方には毎日のことでこれではいつまで持つのかと考えると不安になるから

彼女はただ今日の不安と方途のなさから逃れようと親しくもなく信頼もできない友たちにメールを送り会えれば会って飲んでしゃべり言いたいことからはいつも逸れて

いつも逸れて彼女はいつも心を浅く保つ保たねば心さわさわ、さわさわ、ようするに死ぬまでの時間つぶし今度生まれてくるときはお金持ちに美女に今度は

そう、今度は今度はと心はくり返すくり返すくり返す今度は今度は、そう、コレは失敗、彼女にもうコノ彼女はいい、もうこれはいい、なんと言おうと

ヒトの世はモノ、カネ、ビ、ツテ、イエガラ、コウウン、努力だって努力できるだけの気概を持って生まれてくればの話、気概だって家の雰囲気によるし

わたしにはなんにもなかっただれにも迷惑はかけてないなんとか生きていていつか死ぬだろうけれどわたしにはなんにもなくって動いていられるうち動いて

いつか病気とわかったり急に血管が破裂したり でもそんなのはだれにでも起こるわたしにも起こるヒトはそういうものヒトは最期はみんな悲劇悲惨消滅

ヒトのひとりヒトの一体のわたし一体を抱えてどこまでわたしは走るどこで倒れるまで行くだれにも心の浅さ思いの生活の趣味の浅さの秘密を明かさずに

どこまで行くわたしは彼女はすでにはじめから死んでいる彼女わたし生まれなくってもかわらなかった人体とさびしい魂、モノとカネの泥濘のなかを

彼女はなににもこだわらずにさっぱりと流されていく泳いでいくなにも大切とは思わずなにも特別記憶に留めようとはせずになにも

残さずに彼女はただ骨と灰と煙になるある日の時間点にむかって彼女、まるでヒトのようにわたしのように彼女のようにただすっかりと消え去るだけのために 彼女は



            【不読】諸君は幸福の一致ばかりを説くが、しかし誰も、不幸を一致しようとは
                  言わぬではないか

                  (アルキビアデースinトゥキュディデース『戦史』)


                         【不読】主はこう言われる。わたしは、
                             あなたの若いときの真心、
                             花嫁のときの愛、
                             種蒔かれぬ地、
                             荒れ野での従順
                             を思い起こす。  

                             (エレミヤ書)



【不読―朗読指示】これからも、なおも現れる多くのこの【不読】の記述。そこでは、ただ呼吸をし、まだ発せられない声を予感し、予感の中に調整し……、そうして、既知の文字の既知の音価を逸れ、未知の音へ、まだ発声したことのない「あ」へ、「い」へ、「う」へ………


   
O virga ac diadema purpure regis, que es in clausura tua sicut lorica?:
  Tu frondens floruisti in alia vicissitudine quam Adam omne genus humanum produceret.      (ああ、王なる紫の枝よ王冠よ、胸当てにも似る囲いのうちにある汝よ。若き芽よ、
   汝は花開いた。アダムがすべての人の子を生ましめた折とは別のかたちのうちに)


                  【不読】だれが仏なのですか だれが仏ではないのですか
                      (ペ・ヨンギュン監督『達磨はなぜ東に行ったのか』〔1989〕)


        …………(口内左、奥歯付近で)r, ……(ふたたび口内左、奥歯付近で)r,
         (閉口し喉に高圧をかけつつ)N,



ぽえとりー、くりすます、ないと、あっと、てぃー、えいち、しー。
(Poetry christmas night  at t.h.c.)



        【不読】わたしはまるで蚕のように、みずから自分の死ぬ家をこしらえていたのです。
           (セルバンテス『やきもちやきのユストレマドゥーラ人』)



  遠くから来たみたい、ナイト、
      来た、
      来た?、
        みたいでナイト、
            ナイトのN、よ、ひらいて、くれ、おくれ、 ここ、
  ここに
  ここで、
     母音たち、子音たち、私の喉が
  まだ発したことのない音で散っていくように、裂けていくように、
  持ちこたえよ、私の喉、からだ、
     (来た?)
     (来る?)



      Ave, ave, de tuo ventre alia vita processit qua Adam filios suosDenudaverat.
    (幸いあれ、幸いあれ!汝が腹より来しは別の生命。アダムにその息子らに
                 あらわにせしめた生命とは)


                 【不読】これまでの日本人との交際経験から、計画に対する彼らの盲従性と、
                     齟齬をきたした計画に対する修正能力の不足はよくわかっている。
                       (アメリカ海軍第三艦隊参謀長ロバート・B・カーニー少将)

po e to li~, ku li su ma su, naito, atto, ti~, eichi, si~

   【不読】永く存続した政府は、軽微かつ一時的の原因によっては、変革されるべきでないことは、
       実に慎重な思慮の命ずるところである。(…)しかし、連続せる暴虐と簒奪の事実が明らかに
       一貫した目的のもとに、人民を絶対的暴政のもとに圧倒せんとする企図を表示するにいたるとき、
       そのような政府を廃棄し、自らの将来のために、新たなる保障の組織を創設することは、かれら
       の権利であり、また義務である。(『アメリカ独立宣言』、一七七六年)

po e to ri, ku ri su ma su, naito, atto, ti, eichi, si

    【不読】政府というものは、人民、国家もしくは社会の利益、保護および安全のために樹立され
       ている。あるいは、そう樹立されるべきものである。政府の形体は各様であるが、最大限の幸
       福と安寧とをもたらし得、また失政の危険に対する保障が最も効果的なものが、その最善のも
       のである。いかなる政府でも、それがこれらの目的に反するか、あるいは不じゅうぶんである
       ことがみとめられた場合には、社会の多数のものは、その政府を改良し、変改し、あるいは廃
       止する権利を有する。(『ヴァジニアの権利章典』、一七七九年)

               【不読】集団においていちばん問題になるのは、無能なリーダーを
                    どのようにして排除するかということです。
                   (岸田秀『日本人と「日本病」について』)

 

  時間の遡るように
  時間は遡るように
  (時間ノ流レノナカデ遡ルトハ、遡リヲ、進ム、トイウ事?……)

po e to ri, ku ri su ma su, naito, atto, ti, eici, si
  (【不読】これを逆向きに辿っていくねぇ~、いくよぉ~、)
ihsicieitotta, otianu, samusiruki, roteop

ihsicieitotta, otianu, samusiruki, roteop
   でも、夜、ナイトよ、night, お前、現われよ


              【不読】優れたとか、強いとか、そういう言葉に取り憑かれたのです。
                餓鬼道に落ちた者が、いつも飢えに苦しんでいるように、あなた達は、
                食物よりももっと不確かな実体の無い物に取り憑かれ、いつも飢えて
                苦しんでいるんですよ

                (篠田節子『聖域』)

                 
  
   O virga, floriditatem tuam Deus in prima die creature sue previderat.
   (ああ、枝よ、神は汝が花ひらく予見したもうた、その創造の第一日に)
   Et te Verbo suo auream materiam o laudabilis Virgo, fecit.
   (神はその御言葉にて汝を作りたもうた、こがねなす母たるからだとして、
   ああ、誉むべきおとめよ)


(【不読―発声指示】ここから。喉、口、歯裏、舌たちは、未知の音に会いたい。まだ出したことのないような発音で、母音たち、子音たちに会う―――)


    【不読】nightの、nightの、
             【読む、ここから―】  N(〝えぬ〟)、


                 【不読】心の旅路など、ない。(マイスター・エックハルト)

とある冬、また、とある冬、は、とraるfu(n)yu、rは、
それだけでは極私的=獄死的。(【不読】「ワタクシ」、寂しい牢獄よ、我ガ敵、最も近い、非情の異国、……)であり、(【不読】「ん」に近い)「う」~ン、台湾テンメンビールを、
N,N,N,と(んづら)コイテI。ア、イ、ア~イッ、イッ、
                             地震ダ紘子ちゃん、
コバルトブるー領収書 トブ るート、つぎはG,datta。G,(おGちゃんに初夜権よこせ。頼んだら、OKじゃったぞ。ケイサツカンとキョウイクイインはかんけいあるかのう?ある、ある、どっちもエッチじゃのう。そうじゃ、そうじゃ。)
              

        【不読】骸骨は女の裸より面白い
            (ベルイマン『第七の封印』)

   O quam magnum est in viribus suis latus viri de viribus suis latus
   viri de quo Deus formam mulieris produxit quam fecit speculum
   omnis ornamenti sui et amplexionnem omnis creature sue.
   (ああ、なんと偉大なことか。その力において、人の子の脇腹は。そこ
   より神は女のすがたを生みいだし、そのあらゆる美の鏡を作り、その
    創造のみわざすべてを抱きとめる者を作りたもうた)


エッチ、H,エッチ (意味、ちゃうねんでえ)
で、ぐ、んぐT、T、T、      【不読】人生に十分な障害物がないと、自分に躓く(ボリドーリ)

   O flos, tu non germinasti de rore nec de guittis pluvie,
   nec aer desuper te volavit, sed divina claritas in nobilissima
   virga te produxit.
   (ああ、花よ、汝が生まれいでたは露からでもなく、雨のしずくから
   でもなく、汝が上を飛びすぎる大気からでもなく、それは神なる
    ひとすじの光、汝をこよなく貴き枝に宿らしめたは)


                        【不読】物を云ふことの甲斐なさに わたくしは黙して立つばかり
                             (宮澤賢治『野の師父』)



TO、hO、hrO,hr、ふるふる雨の夜ザム、ダイオレクトム。ムカンジライムのサンプル容器を、は、それだけでは獄梓的。で蟻、(ありぃ?)、今夜、カシオペア下のカップヌードルおでん味、うを~、鯵、橋が佐々暮れダッテ、ぼくの膣鋳たい診たい、タ~イ!
で、ズカッタ、カっカタ、ヅカっタタ、ガーンジライム溶液もおオロろろクズヲヲヲ、
は、獄市滴、オレオクチムビーチャム社の、オレオチャム、へへへへへぇ、左手中指に詰めて万年、ほごほご、で在り( あるぃ / あ、る、い、ぃ / )
あっぎゃああああ陛下、陛下、陛下ああああああ~

   Inde concinunt celestia organa et miratur omnis terra,
   o laudabilis Maria, quia Deus te valde amavit.
  (かの地より天なる声は和して鳴り響き、この世のものは皆
   驚きにふるえる。ああ、誉むべきマリアよ、神が汝を大い
   に愛したもうたがゆえに)

はそれだけでは獄史笛、手、テキ、っキッ忌、っ、貴、わっ獄、わっ獄。残像
ザンプ。で、あ~ル、da、R。恋、魚の。うおっ恋、株主資本金比率の。恋、
で、亜莉、離李璃、く!h!、く!ga-h!、ハヤクコノ、オトコノ、カラダノ、
ニオイヲ、シリタイ、シリタイ、


   (【不読】ここよりihsicieitotta, otianu, samusiruki, roteopの連祷)

                      どズンっ、ト、I、ツ?!
で、ア離、Неτ(ニェーット)!、だんだんカタカナ、だ、だダんだン、っ、っ、〔r〕、
〔r〕!
     ぉぉふぅぅ、〔r〕、〔gRag〕、〔Ra〕、〔hRa〕、さ、ばかりの
戦ひの中にやさしかりける、ことかな。さばかりの
戦ひの中にやさしかりける、 ことかな。で、
h,またH,でででs。IっC(ち)ゃって、IっちゃEIってんだ、んだ、んだんだ、の、だんだTOTO!、
    TIANU、S、アヌスぅ?、ぅRへへへへへ、へ~~~~~~(しだいに濁音化しながら)


  O quam valde plangendum et lugendum est quod tristicia
  in crimine per consilium serpentis in mulieriem serpentis
  in mulieriem fluxit.
  (ああ、われらはいかに大いに嘆きかなしまねばならぬことか。
  悲しみが罪となり流れこんだがゆえに、かの蛇のたくらみを
  つたって、女のなかへと)


【不読―朗読指示】前奏詩篇『彼女は(―――すなわち、あなた、私、私たちは)』の彼女、現われよ、すなわち、あなた、私、私たち………。すなわち、『ノーというわ、じんるい』。





【タイトル。不読】
ノーというわ じんるい

                   【不読】私は薔薇の上に寝ているのか?
                         (ガティモジン―アズテク帝国最後の王。スペイン人によって
                          灼熱の炭火の上に寝かされ、処刑された時の言葉)




つかれ
すぎているのよ、たぶん
いのちのすばらしさ
くちがさけても いえないなんて

あせ
うで かたの こわばり
めのおくも いたくて
うまくまとまらない
かみのけ

いのちをさんびするのは
おかねもちのおくさんたち ばっかり
おっとは だいきぎょう
むすこは けいえいこんさるたんと
いのちのすばらしさ せかいに
つたえなきゃ つたえなきゃ
ま、じんせい、
いろいろなことはあるけど、
すばらしいものだわよね、って

はんろんしない あたし
なにもできないし、あたし
つかれすぎているの、たぶん
とおいくにに たくさんのしたい
あとからあとから ばくだん みさいる
あたしが きょう かわなかったべんとう
もえるごみになっていく あした あかるく
しんでいくしんでいく きょう かわれなかった
べんとう たべられなかった せんじょうのこども

つかれすぎてるの、あたし
たすけられなくて、ごめん
ごめんなさい、ごめん、ほんとに
たすけたかったの、あなたを
こんなはずじゃなかった、あたし
つかれてなかったころ まいにち
おもってた、やれる あたしは
ひとりでも あたし やれる、と
みさいる ばくだん なくして
たべもの こうへいにわけて
おもってた わかいひ
しんじてた じんるい

あたし つかれて ふらふら
てれびつけて ぼんやり
あなたのこと みている
あなた ひどくやせてて
あなた たつちから なくて
あなた おなか ふくれて
しのまえの かおの きれいさ
めの なんと うつくしいこと

あなたが しんで しずかに
なおあける あさ きぼう、と
よぶひとがいる それを
つかれ にがい こころで
ノーというわ あたし
ひていしても ひていしても ひていしても たりない
ノーというわ あたし

あなた たすけられなくて
あたし みてるしかなかった
あなたから とおく はなれて
せまい せまい あたしのつかれのなか
あたしの
わびしさ むりょく みじめさのなか
みてるしかなかった

ひていしても ひていしても ひていしても たりない
じんるい

ノーというわ あたし
ノーというわ じんるい



  Nam ipsa mulier quam Deus matrem omnium posuit viscera sua cum vulneribus
  ignorantie decerpsit, et plenum dolorem generi suo protulit.
 (すべての母になれとて神の作りたもうた、まさにその女が、
  その腹を引き掻き、無知なる傷をつけ、
  その同胞らにまったき苦しみを宿らしめ)



(【不読、否、ささやいて】……………………ノーモア、じんるい。)
(【不読、否、さらに小さくささやいて】)………………私は、そう、確かに、グノーシス派、カタリ派の、末裔、……)

(【不読】ここよりihsicieitotta, otianu, samusiruki, roteopの連祷の続きを。日暮レテ、道遠シ、先を、急ぐ。A,より、続きを。)
                 

  【不読】ここにある時間は、いったいどこに経っていくのか
      秋は、とっくに事を終わらせてしまっていて ぼくに戦慄なんかしない
      白髪は死の花 ゆっくりと、腰を上げる
      (北村太郎『路上の影』)



Aだったのだ、そう、Aだったのだ。荒木さんのアカシヤの雨が降る時、のAだったのだが、あ。あ。なにもぉ、あ。に固執しなくていいじゃないのよ~んとあたしは言いたいけれど、えい。などと言って英語に媚を売る必要もなくってね、悪かったねえ。先を急ぐよ、だって、未来のわたしたちの前世を生きているわたしたちだもの、過ぎ去ろうとする今が、過ぎ去ってしまう前から、もう、懐かしい。ひとつの生の価値はその生のうちにはない。価値は断絶を乗り越えた先のつながりにしかないから。(睡蓮に落ちる驟雨が賑やかだ……)ひとの過去も未来もわたしには見える。ひとりの人間はあとさきのあいだの薄い扉。閉めるための扉?開けるための扉?とにかくも扉。
まだ現われぬ未来があるということは
すでにすべてが終わっているということ
睡蓮に落ちる驟雨の音の暇々に
わたしたちの無数の生死が揺れる
生き死にの
多すぎる記憶は
水になるほかない
水は流れ
溜まり
また驟雨となって
扉となったひとつの記憶のはてのからだに
降る
こころに降る
(睡蓮に落ちる驟雨が賑やかだ……)
作為と方向をすっかり棄てて
戻っておいで、人生たち
水へ
水として
Mい、みぃず、とっして、U、と、こころは鳴れ、あるいは黙れ宇宙、ウチ、ュウ、家遊、家幽、SI,だろうか、これは?死?ワタシハ、死ノ、つぼみ、「つぼみは、花が咲くと消えてしまう。そこで、つぼみは花によって否定されるということもできよう。しかし、これらの形式は、流動的な性質を持っているため、同時に有機的統一の契機となり、この統一にあっては形式は互いに対抗しないばかりか、一方は他方と同じように必然的である。この等しい必然性があって初めて、全体という生命が成り立つのである」。(ヘーゲル『精神現象学』樫山欽四郎訳)
しかし、

             (睡蓮に落ちる驟雨が賑やかだ……)



M、ぅ、Mぅ、な、し、「しかし空しいひろがりがあるように、空しい深さもある。また、多様を集合させる力をもたないで、有限な多様のなかで流れ出て行ってしまう実体のひろがりがあるように、ひろがりをもたないで、ただの力として在り続けるような、実質のない深度もある」。(これも、ヘーゲル『精神現象学』樫山欽四郎訳)


        【不読】ただ過ぎに過ぐる物。帆をあげたる舟、人の齢、春夏秋冬。(清少納言)

   Sed, o aurora, de ventre tuo novus sol processit,
   qui omnia crimina Eve abstersit et maiorem benedictionem
   per te protulit quam Eva homibus nocuisset.
   (だが、ああ、曙よ、汝が腹より新たなる陽が生まれ、
   エヴァの罪をすべて浄め去り、汝をつたい、エヴァが人の子に
   なした害よりも大いなる祝福をもたらした)



あーべんーとろーと、死ノ歌を、わたくしは、ニッポンよ、いまの文明よ、お前にも捧げる。「我ら、みな、死にゆく定め」(J.F.ケネディ)。われら、みな、しにゆくさだめ。ういあー、おーる、もーとぅる。We are all mortal。実りゆくものは選ばれたものだけで、多くは青いまま落ち、実りの色に変わりゆくけれども、それは枯れ色、ただ朽ちていく、それだけの色。むしろ、きみと歩く。きみと行く。「こっちへおいで、ひばりのさえずるにまかせて、眠りの時も、もう、じきだから。ふたりきりのこのさびしさ、はぐれないようにしようね、ぼくら」。(アイヘンドルフ《Im Abendrot》の詩句による、リヒャルト・シュトラウス『四つの最後の歌』)。あーべんとろーと、はぐれないように …すべきは、だれと、か?ことばも、映像も、いいです、もう。ハグレナイヨウニ …スベキハ、ダレトカ?おお、風の舟で行く告知の使者よ、みずみずしくあれ、天使たちの卵、若草に近い体温を持って天へと昇るガラス張り、ビル群、救い、巨石群、きらめいて黙し、ふる、ふる、ふRぅ、KIっ憶、だけ。本条さん、その名はあえて言わないほうがいい新しい高層マンションから新しい鮮やかな赤い染みとなるべく身を宙に泳がせた、本、条、さ、ん、
                記憶だけ。

ビル群は若く、記憶していない、 ゆりか。暮れがた、記憶らに持たれ、わずか異質な、見えない風景質にも包まれて、アカ、ミドリ、キ、ことに、ミドリ、の、信号のひかり、ひかり、を頼りに、数メートル、数十メートルの先見を拓いて、歩む。春の皺、秋の若やぎ、どこへ逝った?、あれら、発しうることばになお棲まれて、応えの失われ、の、永劫カモシレナサ、風、風、そよぎ、星辰、ふる、ふる、ROTEOP、R、O、T、E、O、P、(【不読】ihsicieitotta, otianu, samusiruki, roteopの連祷、ここに終わる)、
ビル群、救い、巨石群、きらめいて黙し、音にすべきでないことばことばことばことば。ガラス張りは若草に近い体温を持って天へと昇る。みずみずしくあれ、天使たちの卵。孵化をいそいで。孵化をいそぐな。本条ゆりか、記憶だけ。風の舟で行く告知の使者よ、わたくしは、明日……



   (【不読―朗読指示。
         ここより、普段の声を取り戻すための最終詩篇、 
         『ろくがつのほていあおいにきすをしたことがあるかい?』





ひとりでみずを
てんにおちていってしまわないようにみずを
てんにおちていっていつも もどってこないものたちにしたいようにみずを
そう、あのはるのひのごごのしろつめくさ、みずを
いかないでほんとうにおねがいほんとうに、みずを
おさえていたの、みずを
りょうてひろげてむねをつけて、みずを

くらいあぶらのようなすいめんをすべっていったね、ほていあおい
つきのひかり さくさく
さいていたはな まくまく
あたしのうんめいって、これ? ついに
わかったきがしたけどよるのくらいくらいみずのうえ
ほてあおいよりあおいうんめい
あたしをおきざりにしてかないでうんめい

ろくがつのほていあおいにきすをしたことがあるかい? むかし
さかなしてたころくりかえしくりかえしみたゆめ
はかないのはいつもえいえんのほうよね とおい
てらにいくのね やまとうみのかなた
さらにかなた すべての
ものたちにようやくなみだするすべもおぼえて
しみこんでいくあたしあおいうんめい
みずにさしいるつきのひかりよりあおいあおいうんめい

みずをおさえていたあたしのあおいうんめいのおはなし、ろくがつ
けっこんしようよじだいさくごにじゅんすいにあいして
しろいどれすしろいこころうんめいはあおく
しろいかみさまのまえであさのばらのほおをおちるなみだ

やさしいくちづけをしてね、てのこうになんども
そのむかしさかなだったころひめていたゆめのように
そのむかしおんなだったころすてたゆめのように


              
   Unde, o, Salvatrix, que novum lumen humano generi protulisti,
   collige menbra filii tui ad celestem armoniam.
   (これより、ああ、救いのおみなよ、
   人の子のため、新たなる光明を生みし者よ、
   集めよ、汝が息子に見方なす者を天なる和の響きのうちへ)


             【不読】この国小国にて人の心ばせ愚かなるによりて、もろもろの事を
                 昔に違へじとするにてこそ侍れ
                 (鴨長明『無名抄』)

             【不読】是(こ)のただよへる国を修理(つく)り固め成せ
                 (『古事記』伊耶那岐と伊耶那美)


     【不読】世界には未だかって、何ひとつ決定的なことは起こっていない。世界についての、また、
         世界の最後の言葉はまだ語られていないし、世界は開かれたままであり、自由であり、
         いっさいはこれからであり、永遠にこれからだろう。
         (ミハイル・バフチン『ドストエフスキー論』)

         【不読】眠りのうちにある人も活動しており、世界の出来事に力を貸しているのだ。
             (ヘラクレイトス)





【不読、あるいは読むのも可】


【不読】
そうして早くも、秋 ―――             
あのときその林の中で            終わりを急ぐ人々の群れを逸れて           
姿勢正しく坐っている             上った山の中腹から滅びの様を見て居りましょう    
白狐を見た                   さようなら、人類                   
ひっそりと沈黙そのもののように      首切り草と名づけた(のはあなた、ね)植物に     
坐っていた                   周囲の清澄さをさらに透明に静まらせながら    
夢だったかもしれない             山のその辺りでわたしたち囲まれ           
幻覚だったかもしれない           うっとりと抱擁を続けながら朽ちていくまで      
けれどもひとつの指標を見たと思った   すとん、すとん、と鳴る首切り草の群生の        
(渋沢孝輔『白狐』)              鉄錆の香りにあなたの体の香り混ぜて         
                         すとん、すとん、と呻くわたしの          
                          来世もしっかりと摘んでね、骨ばった
                         白い壊れそうな指、大切なあなたの指で
                          大都市が葉巻の最後の葉の上に

                                                        燃え尽きるまでじりじりと身を焦がし捩って、 
                                                         ………………… 
                                                       ((のはあなた、ね)駿河昌樹詩葉『ぽ』89号より)






     【不読】
で、それから? それから、まだあるのか?
                              (ボードレール『旅』)





(【不読】そう、終曲)





        【不読】まったく、口数の減らない人類どもさ、
          自分の能力に酔いやがって。むかしと同様、
          狂いに狂い、
          断末魔の激情のなかで神に祈ってやがる。
                               (ボードレール『旅』)






あたしの死体じゅくじゅく




おとうさん性交せよ、あたし、           【不読】〈無力〉という近代のミューズ…
そんな世界うまれたときから超えていて、              (マラルメ)
冷感症だとひとはいうけど
男女のことなど時間のムダに思えるの

おとうさん性交せよ、あなたは、
にんげんは二種類あって、
種族保存係とじぶんを生きていくのとだって言う     【不読】日本人ほど便利な民族は
おとうさんは性交係                      いないではないか。
週にいちどははらませて、やけ酒のんで          権威さえ与えておけば、
むなしいと、おれはむなしい、むなしいと、         安月給で夜中も働いてくれる。
くだまきながら死んでいく                   (満州国総理・張景恵)

おとうさん性交せよ、あなたには、
ほかにないもの、なんにも
ホースをたずさえていつも消防士
いいんじゃない、それもじんせい
あっちこっちにいのちの火つけて
いいんじゃない、いそがしいむなしさ

おとうさん性交せよ、あたし、          【不読】俗人猶愛するは未だ詩と為さず。(陸游)
かってにすきに生きるわ
にんげんかんけいだいっきらい
たべてねてちょっとはたらいて
きれいな景色みてかぜにふかれて
としとって病気したら死ぬのよ
あたしの死体じゅくじゅく
くさってにおってくずれる
夕日がきれいだといいなあ
あたしの胸の骨が出るとき





        
【不読】NON SERVIAM.(「われは仕えず」。
            『失楽園』中の悪魔ルシファーの宣言。
            ジェームズ・ジョイスの座右銘でもあった)





         NON SERVIAM