2016年6月17日金曜日

本当にひっそり歩を進める


細い板を渡した
たよりない
舟着き場の先端まで行って
戻ってくるだけが
毎朝の
日課のようになった

台所の裏ドアから出て
露に濡れた草を踏み
湖から突き出た木板の先まで
ゆっくり足を進め
先端まで行く

しばらく潤った静寂と居て
たぶん
わたしと
新たな日との間の
まだ固まっていない
薄い肌のようなものを
誰にも気づかれないように
見とがめられないように
調律する

やがて
落ちないように
後ろに向きなおって
もうずいぶん古い木板の並びを
身軽な動物のするように
足先で音も立てず
戻ってくる

わたしが生まれない頃
むかしむかし
この舟着き場は賑わったそうで
朝な夕な
おめかしした人たちが
ひとりひとり
舟から下りたり
乗り込んだり
そうして
今は跡形もないお城への
近道を
ここから辿っていったのだとか

もう舟は着かず
出てもいかず
木板が湖の水面に伝えるのは
わたしの足の動きだけ
湖に知られたくない
思いも
思い出も
いっぱいあるわたし
本当にひっそり歩を進めるので
湖がさざ波を立てることも
ほとんどない
わたしの動きのせいで
などは



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