2017年7月9日日曜日

ソーヴ・キ・プ!Sauve qui peut ! *



奇妙だと思わないか
土と空気と水の星に生まれ落ちて
それらに囲まれて
それらのおかげで
生きていられる身体なのに
ひとはどんどん
それらから離れた忙しさを強いられて
数や表象ばかりに
意識を向かわされて
時間というエネルギーを
終わりなく
やすみなく
蕩尽させられ続けている
目はすでに
モニターを見続けるためだけの器官
指はタッチパネルや
キーボードに
この地球環境でいちばん馴染み
たまに土や泥に触れると
たじろぐばかりか
アレルギーまで起こしかねない

奇妙だと気づいた者だけが
わずかに逃げ出す可能性に近づく
うまくいくか
やり損ねるか
それはわからないが
気づいた者の目で見まわせば
この戦場にいながら
じぶんを救い出す方法は
見つからないでもない
大事なのは
じぶんが人類に属しているかのような
愚にもつかない妄信を
とにかく即座に捨てることだ
まわりの人類とやら
国民とやら
市民とやら
ニンゲンとやらは
もう滅んでしまっている
蛆が体内で蠢いているので
肌がぐぶぐぶと揺れ続け
まるで生きているかに見える死骸
微笑みや掛け声が
売らんかな売らんかなの
幻惑イメージの奔流のCMさながら
生き生き弾けているからといって
まだ生きているなどとは
けっして信じてはいけない
起こっていることを遍く見れば
とてもではないが微笑みなど
浮かべていられる時代ではないから
微笑みや喜びは
むしろ死霊のあかし
鈍感や愚鈍など超えて
状況判断力や行動決定力の
完全な腐敗のあかし

ソーヴ・キ・プ!
ソーヴ・キ・プ!
土と空気と水の星に生まれ落ちて
土と空気と水に触れない次元に
意識の舞台はすっかり移り
ひとの身体はもはや肉体ではなく
ひとの心はもはや心ではなく
ひとの精神はもはや精神ではない
じぶんの本当の身体や心や精神は
いまどこにどのようにあるか
いま此処にないのだけはたしかで
いのちもじぶんの手にだけはないのが
いまでははっきりとわかっている
  
Sauve qui peut !
フランス語。集団としての作戦や行動が、もはや完全に不可能になった際、各自ばらばらで逃げよと発せられる総撤退命令。もはや規律ある行動は無意味であり、救助することも助けあうことも不可能な最終局面で発せられる。ひとりひとりの運と機転だけに個人の生命が掛かっている。「各自退避せよ!」「逃げられる者は逃げよ!」




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