いん氣な弾力。かなしいゴム。
そのこゝろのおもひあがっていること。
凡庸なこと。
凡庸なこと。
金子光晴「おつとせい」
忙しい身ながらも
さすがに正月は数日休めるのがよく
たゞそれだけがよく
この機逃すまじと
からだはしっかりと風邪を引き込んで
一年中貯め込まざるを得なかった世間の毒素を
燃やそうとしている
咳込みながら
それでも
近所の神社いくつかにひやかしに歩いて出てみると
人民ないしは民草は（ひょっとして、そろそろ臣民？）
本殿の前に食肉処理場に入る豚牛羊よろしく粛々と列をなし
あるいは神社の外までも列を作らされて
初詣とやらいう酔狂な時間つぶしに
今年の幸運だの良縁だのを桃色に夢見ている気配
個人の幸運や良縁はなべて他人との間の格差発生の称賛でしかない
心ゆくまでやってみたらよろし
チープな日の丸も
ほれ
そこらで買えるはず
東京の中心にある大きな空虚
とロラン・バルトが『表象の帝国』で評した場所には
十四万人以上がおしよせたそうで
それがたった一日のことだとすれば
たしかになかなかの動員数
年季の入ったアイドルってのはすげぇもんだ
が
どんなアイドルにもピンときた試しのねえ俺には
やっぱり
なにがなんだか
まったくわからねぇ
いま記しつつある駄弁の口調が
なつかしい金子光晴爺のそれにちょこっと似てくるのも
どうしてなんだか
まったくわからねぇ
まったくわからねぇ
といえば
十四万人以上の人間の肉体と精神が進んで受け入れた
寒い中での長時間の待機という厖大な無駄が
まったくわからねぇ
アイドルを見に行くってのは
生活に必要なこととは違う余計事のはずで
それは快楽原則に根ざしていなければいけないはずだが
快楽原則から外れる行動を長時間耐え忍ぶとなると
あぶねぇ
あぶねぇ
やべぇほうに行っちまってる連中の大量発生じゃねェかって
思っちゃって
つらい
ショックだ
こんな光景ばかり見せられ
にっぽん社会から俺はハラスメント受けてる感じがする
最近のにっぽんって
どこもかしこもポルノだ
撮って出しだ
ろくに価値もないもののアメ横じみた流出だ
自己もない連中の自己顕示のヌードを見せつけられ続けで
やだやだ
ほんとうにやだ
せめて自己を拵えておいてくれ
せめてエゴを拵えておいてくれ
せめて悪人にちゃんとなってから出直してきてくれ
たいしてゲージュツ理解者でもなさそーな連中のなだれ込んでいく
例のあれ
フェルメール展
そっちの入場者数のほうは
１２月１８日時点で四十万人突破だっていうから
もっと大ごとだって気もするが
でもアイドル家族ひとつに一日で十四万人のほうが
考えてみれば
やっぱり
やべぇ
やべぇ
やべぇ
咳が止まらないが
俺
これがにっぽんアレルギーと正月アレルギーだっての
よく
わかってっから
ああ
ほんとに正月はやだ
数日休めるってこと以外は
ふんぞりかえって
ドウヨ？
って
にっぽんってやつが
醜く流れ出して来やがる
年のはじめ
とか
なんとか
どうでもいい民草の幻想の産物の区切りの
あっちと
こっち
が
もうもうもう
どろどろ
にっぽんどろどろ
ぐっちゃぐちゃのびっちゃびちゃ
げろげろの
ぴぎょぴぎょ
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