あゝ、ポスツマス、ポスツマス、
歳月の過ぎゆくこと、いかに早き
ホラチウス
晴れていればヴェランダに
布団だの毛布だのを干したいところだけれども
曇っているし
すこし湿ってもいるようなので
今日はやめよう
と
思いながら窓から身を離すとき
思いながら窓から身を離すとき
急に
むかしのテレビ番組のテーマ音楽が思い出されてきて
ちょっと口ずさんでみると
これはたぶん
朝のワイドショー系のはしりの
小川宏ショーのテーマ音楽
それとも
と
ちょっと慎重になって
ちょっと慎重になって
ひょっとしたら1964年から1993年まで続いた
NETのモーニングショーのほうの音楽だったか
と
考え直してみるが
考え直してみるが
今となってはどちらの音楽だったか
判別しようもない
モーニングショーといえば
いろいろなMCが順次交代して務めていたが
なんといっても溝口泰男が印象ぶかく
あの頃はたしか溝口モーニングショーと呼ばれて
毎日毎日あたり前のニッポンの日常を織り成していたものだった
天知茂の『非情のライセンス』出演時のような
ダンディーなスーツ姿で
上にくるりと乗っけて整髪料で整えた髪の毛のスタイルは
ワイドショー系のMCの中でもちょっと異色だった
デキるオジサンという感じに青少年からは見えた
なんでもすぐにググれる時代の今なので
溝口泰男をもちろんすぐググってみたわけだが
つまらないテーマに関しても情報がわんさと出てくる昨今というの に
意外なことに溝口泰男の情報はあまり詳しくは出てこない
彼がモーニングショーのMCだった頃は
ニッポンの世情は彼の語りによって目鼻立ちがつくかのようだった のに
MCの役を終えてテレビから消えてしまうと
世間はすぐに次のMCたちに目を移し
さらに次のMCたちに移って行って
そうしていつの間にか溝口泰男は
無限に層をなす情報の渦の中に飲み込まれていってしまったらしい
こういうのは
はじめから終わりまで世間の耳目を集めたことのない人の
ぽつん
ぽっ
ふっ
という音さえ立てない消滅よりも
もっとさびしい感じもするが
それでも一時期は世間なるものの中心に居続けたという点で
溝口泰男は幸せだったと見なすべきなのだろうか
さっき
天知茂だの
彼が当たり役の会田刑事を演じた『非情のライセンス』だのを
ちょっと思い出したが
まことにまことに
♪生まれた時が悪いのか
それとも俺が悪いのか
なにもしないで生きてゆくなら
それはたやすいことだけど
この世に生んだお母さん
あなたの愛につつまれて
なにも知らずに生きてゆくなら
それはやさしいことだけど
…………
という『非情のライセンス』の主題歌「昭和ブルース」っぽさが
うわっと甦り溢れ出て来るような
人間の普遍的な運命を体現しているかのような溝口泰男ではないか
まことにまことに
まことにまことに
そういえば
天知茂演じた過剰暴走刑事たる会田刑事は
広島出身の被爆者で
両親を原爆で亡くした設定になっている
しかも実姉は在日アメリカ軍兵に強姦されて自殺していて
このドラマの二年前に作られていた『ダーティーハリー』よりも
背追っている闇がはるかに深い
(ハリー・キャラハンと会田刑事と…もっと近いところなら
(ジェイソン・ステイサム演じるロンドン警視庁のトム・ ブラントなど
(までの系譜やらネットワークがたちまち浮かび上がってくるが
( そのあたりは暴走系刑事キャラクター研究の成果を待つことにしよ う…
「昭和ブルース」の歌詞が
なるほど
悲壮に染みてもくるというわけだ
いまだに…というか
いよいよ今にしてさらに深くふかぁく
♪生まれた時が悪いのか
それとも俺が悪いのか
どころか
生まれた国が悪いのか
それとも安倍が悪いのか
という泥沼どころか糞溜状態に醸成し切ってきたニッポン自治区で は
さらにさらにさらぁに
痛切に染みてくるようになったの…で…あります
それにしても天知茂が
旗本奴の代表的人物たる水野十郎左衛門の子孫だったとは知らなか ったし
芸名の由来が
むかしの駐日ドラゴンズの天知俊一監督と杉下茂投手から
天知と茂を貰ってみたものだったなんて
まったく知らなかったし
『眠狂四郎無頼剣』 では主役の市川雷蔵を喰ってしまうほどの存在感で
彼の力量と魅力を認めた三島由紀夫には『黒蜥蜴』出演を依頼され
三輪明宏の相手役たる明智小五郎を演じて当たり役となったという のに
クモ膜下出血で倒れたところを担ぎ込まれた渋谷の日赤医療センタ ーで
54歳で急死してしまったことなどが
すらすらわかってしまうのはウィキペディアなんぞのありがたいと ころで
多少の間違いがあったからといって
それがどうなのサ?
とやっぱり思うのサ
三島由紀夫ばかりか渋澤龍彦も天知茂を高く買っていたなんて
当時でもなかなか周知していなかったんじゃないのかサ?
それにしても三島由紀夫が
「近代味を漂わせたみごとな伊右衛門」
と天知茂の伊右衛門を絶賛した中川信夫監督の『東海道四谷怪談』 は
コッポラをして
「世界のオカルト映画の中で最高傑作だ」と評させるほどの名作で
この映画のDVDをつねに手元に置いておきたくて
わざわざわたくしが買い求めたのは
たしか
数年前のある暑い八月のことであった。
この映画の演出でのみお目にかかれる超有名な仏壇返しの場を
ぞくぞくし続けながら
何度もくり返しくり返し再生して見たものであったサ
この中川信夫版『東海道四谷怪談』の天知の演技以来
三島はいよいよ
「夙に私は君のファンになっていたのであった」とまで惚れ込み
これが1968年の三島の戯曲『黒蜥蜴』舞台化の際の
明智小五郎役への大抜擢に繋がっていく
明智小五郎という「このダンディ、この理智の人、 この永遠の恋人」には
天知茂しかあり得ないとの
三島の演劇的恋情の極みの発露であったサ
0 件のコメント:
コメントを投稿