夕方、居間兼キッチン*には、 西のベランダに面した掃き出し窓から夕陽が射し込む。 よく晴れた日には、オレンジ色のつよい日差しの場合がある。
まだ夕飯には間があるので、 この時間帯にトーストを食べることがある。 厚いガラスを上に置いた構造のスチールテーブルの上でバターを塗 っているところに、オレンジ色のひかりが射す。 溶けていくバターからほのかに湯気が立ち、 これがひかりの美しさに恵まれた特別な瞬間だとわかる。 トーストを口に運ばずに、 バターの溶けていく表面をしばらく眺める。
ひかりの出どころである夕方の太陽は、 大きな半熟のゆで卵のようで、西に浮かんでいる。 太陽を隠さないで、上下に紫がかった雲が浮いている場合もある。 高層マンションのガラスが陽に反映している。
こういう時間に居合わせるたび、生涯で二度と、 これほどの居間に住むことはあるまいと思ったが、 その後移り住んだ住まいの居間も、 べつの美しい忘れがたい様相に恵まれていた。
*世田谷区三軒茶屋2-30-3 ルミエール三軒茶屋 305 居間
0 件のコメント:
コメントを投稿