2019年2月6日水曜日

こころよくさえある影がまた

 

あぶなくはないが
下手に関わっていると結局はたいへんなことになる
うすい
あわくさえある
どこかスミレの野原を思わせさえする
あこがれのように
こころよくさえある影が
また
すぐ間近まで近づいてきていた

どうしようかと思ったが
むやみにひかりをあてて無きものにしたり
へんに馴染んでみたりして
飼いならしたつもりになろうとしてもダメなので
やゝつよい風のなかで
長めの髪を乱されすぎないようにしようと
瞬時瞬時からだの向きを変えたり
背をたえず屈めたり伸ばしたりし続ける時のように
あるいは
大きな段ボールや凧を抱えている時に
なんとか風の抵抗を低めようと
向きを変え続けるように
定まった姿勢を影にたいして取らないように
やっぱり努めることになる

これだって
やりようによってはずいぶん疲れてしまうし
まるで春の野歩きのようにうきうきと
ひとを楽しげにさせつゝ
奥深いちからを根こそぎ奪っていくのがこの影の特徴だから
なにより
こんなやりようで
余計に疲れさせられないようにする必要がどうしてもある
そうとなれば
やはり
見ているような
見ていないような
感知しているような
いないような
そんなしぐさを
これ以上ないほど軽くかるくしていく他ないので
傍から見ると
まるで小蠅かなにかを小さく追い払っているように見られ
ちょっと踊りの所作をおさらいしているような
のんびりと優雅なふうにも思われたりする

かげろうの羽が陽を受けて
木板の上にあわい翳を落としているような
そんな影には
じつはやさしい花園から流れてくるほのかな芳しさもあって
これに付きまとわれていると
うっとりしてくることさえあるのだが
いけない
いけない
と気を取り直し
鏡に映ったじぶんを確かめ直そうとしたりすると
顔がすっかりなくなってしまっていて
いったい
なにを守るために
こんなにこころよい影と戦い続けていこうとしているのか
また
あやふやになりかけてしまう
わからなくなってきてしまう



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