2023年4月1日土曜日

五月祭と暮春春服


 


春の水を祖国とよんで 旅立った友らのことを
そうして僕が知らない僕の新しい血について
僕は林で考えるだろう

寺山修司「五月の詩」

 



 

アーサー王の王妃ギネヴィアは

五月祭のための花を摘みに

円卓の騎士たちを連れて

森や草原へと出かけて

うち興じたことがあった

 

みな立派な馬に乗り

絹であれ毛織物であれ

みな緑色の服を着て

王妃が伴う十人の貴婦人たちを

騎士たちがひとりずつ世話をし

それぞれに従者ひとりがつき

衛士ふたりずつもついた

 

これに参加した騎士たちは

ケイにアグラヴェイン

ブランデレズにオザンナ、ラディナス

サグラムア・ル・デジルース

ドディナス・ル・サヴァージュ

ペルザント・オブ・インド

イロンシードにペレアス

 

王妃に思いを寄せるマレアガンスが

この時に百六十人の兵で急襲し

全員を捕虜にしようとするが

王妃は指輪を小姓に渡して

最も美しく最も完成された騎士

ランスロットを呼びに行かせる

そうしてランスロット一世一代の

最も過酷な冒険が始まることになり

荷車の冒険と呼ばれて

語り伝えられることになる

 

それはそうとして

王妃ギネヴィアたちのこの五月の

花摘みの行楽の光景は

東アジアの民には論語・先進第十一の

例の暮春春服を思い出させる

 

曰く

莫春には春服既に成り

冠者五六人

童子六七人

沂に浴し

舞雩に風し

詠じて歸らん

 

政治についての抱負を孔子から聞かれ

弟子たち各々が持論を述べる中で

ひとり曽晢だけは

自分は政治のことは考えていないと言い

かわりに述べたのが

 

晩春の心地よい日

新調した春着を纏って

近所の青年たち五六人

子どもたち六七人と連れだって

沂水のほとりで水浴びをし

そこから数町南へ行った田んぼの中

雨乞いの儀式が行われる丘に登り

しばらく爽やかな風に吹かれ

それから

歌を歌いながら帰ってまいります

そんな生活を送るのが

私の望みでございます

 

といった内容だった

論語の中で最も印象深い箇所で

論語が単なる修身の書に収らない

詩味溢れた古典となる核心箇所でもある

西のアーサー王物語とイメージの

共鳴が起こっているかのようでもある

 

古代ローマの祭に由来し

農作物の豊饒を祈念する五月一日の祭は

アーサー王の時代からすでに

May FestivalMay day

呼ばれていたものだったかどうか

この日の朝露で顔を洗うと

美しくなれると言われ

野山で摘んだサンザシが飾られた

魔女たちがサバトをするヴァルプルギスの夜は

この前夜のことでもある

 

 





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