2023年4月21日金曜日

桜の園

 

 

まったく

なんて世の中になっちまったことか…

お嘆きの方々

 

そんなお嘆きこそ

教養のなさを露呈してしまうはずかしい行為かも

しれませんぞ

 

121年前の

1902年にすでに

チェーホフは『桜の園』で

ちゃ~んと

老学生トロフィーモフにこう嘆かせています

 

 

トロフィーモフ

人類は、しだいに自己の力を充実しつつ、進歩して行きます。

今は人知の及びがたいものでも、

いつかは身近な、わかり易いものになるでしょう。

ただそのためには、働かなければならない。

真理を探求する人たちを、全力をあげて援助しなければならんのです。

今のところ、わがロシアでは、ごく少数の人が働いているだけで、

僕の知っているかぎりインテリ〔ゲンツィヤ〕の大多数は、

何一つ求めもせず、何一つしもせず、差当り勤労に適しません。

インテリなどと自称しながら、

召使は「きさま」呼ばわりする、

百姓は動物あつかいにする、

ろくろく勉強もせず、

何一つ真面目には読まず、

なんにもせずに、

ただ口先で科学を云々するばかり、

芸術だってろくにわかっちゃいない。

みんな真面目くさって、

さも厳粛な顔つきをして、

厳粛なことばかり口にし、

哲学をならべているが、

その一方かれら一人一人の眼の前では、

労働者たちがひどい物を食い、

一部屋に三十人四十人と、

枕しないで寝ている。

どこもかしこも南京虫と、鼻をつく悪臭と、ひどい湿気と、

道徳的腐敗ばかりです。

……で、われわれのやる麗々しい会話はみんな、

ただ自分や他人の眼をくらまさんためであることは、

言わずして明らかです。

ひとつ教えていただきたい、

あれほどやかましく喋々されている託児所は、一体どこにあるんです?

読書の家は、どこにあります?

それは小説に出てくるだけで、実際は全然ありゃしない。

あるのはただ、泥んこと、俗悪と、アジア的野蛮だけだ。

………僕は、真面目くさった顔つきが、身ぶるいするほど嫌いです。

真面目くさった会話にも、身ぶるいが出る。

いっそ黙っていたほうがましですよ。*

 

チェーホフさんよ

いまの時代

もはや

人類まるごと

地球まるごと

売りに出された桜の園

 

誰も彼もが

あいもかわらず

「ただ自分や他人の眼をくらまさんため」の

会話に明けくれていて

「ろくろく勉強もせず、

何一つ真面目には読まず、

なんにもせずに、

ただ口先で科学を云々するばかり、

芸術だってろくにわかっちゃいない。

みんな真面目くさって、

さも厳粛な顔つきをして、

厳粛なことばかり口にし、

哲学をならべている」ばかり

 

121年前のセリフが

そのまま通用しちゃうというのは

チェーホフさん

あなたの慧眼というべきか

天才というべきか

それとも

人類の永遠のかわらなさ

というべきか……

 

 



 

*チェーホフ『桜の園』 第2幕 (神西清訳)






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