2023年4月20日木曜日

いくら老いても過剰な逸脱系が大好きで大好きでたまらないっていう人!

 

 

 

読みたい本があまりにいっぱいあると

逆に

読むべき箇所をろくに読めないで日々が過ぎていってしまう!

 

読むのが好きな人なら

なににも邪魔されずに一年間ぐらい

モンテーニュの『エセー』だけに沈潜していたかったりする

だろう?

だろう?

だろう?

 

かなり変なところもあるプラトンだけを

数年読みふけってみたかったり

する

だろう?

だろう?

だろう?

 

アンドレ・ブルトンの『ナジャ』なんか

大学生の頃に

知ったかぶりするために速読したもんだから

内容なんか

ほとんど忘れてしまっていた

こないだ読み返したら

いやあ

おもしろいの

なんの

 

「ぼくはフローベールを崇拝するものではない」

なんて言ってて

おもしろいの

なんの

 

(ぼくは

フローベール

崇拝はしないけれど

すっごくおもしろいと思うよ

『感情教育』が

あれこそが

おもしろいんだよ

ふつうの小説好きさんたちには耐えられない

あの突き放し方!

あのペラッとした持っていき方!

地続きで

すぐにジョイスに繋がる

あれが!

それに

現代詩の超辛口みたいな

あの書きっぷり!

吉岡実より

辛口吟醸

安部公房より

辛口淡麗)

 

ブルトンのことは

これから

ときどき書くよ

ブルトン信者じゃないけれど

(だって

あいつは政治的には

バカの極み

政治のことは

しっかりタレーランやメッテルニヒに親しんでから

考えたり発言したりしましょうネ)

おもしろいからね

 

1980年代

ぼくがパリのドラゴン通りのメニユ夫人の家に

よく泊らせてもらっていた時

その友人のリュースというオバアサンが食客でたびたび来て

いろいろ昔話を聞かしてくれた

美術評論なんかをしていたというんだけれど

ぼくが会った頃は貧乏で

髪なんかよく洗っていなくて

男のような顔になっていて

アンソニー・バージェスに似ていたほどだけど

ときどき

「そういえばアンドレが…」なんてよく言うものだから

アンドレって

どのアンドレ?

って聞いたら

アンドレ・ブルトンよ!

って言うので

へえええええええええええええええええええええ……

って驚いた

メニユ夫人に聞いたら

リュースは昔

アンドレ・ブルトンの愛人だったことがある

って

リュース自身がよく言っているんだけれど

どうだかね?

どうだかね?

つけ加えた

 

ぼくも

もちろん半信半疑

だったが

リュースはぼくを気に入ってくれて

周囲に

いつも酒臭い息を漂わせながら

いろいろ

文学論や美術論を語り続けるので

つきあって

夜も遅くなるまで

よく聞いていたものだった

 

でも

ブルトン愛人説

やっぱり

本当かもしれない!

と思った時が

あった

 

それは

日本からよくパリに遊びに来るマサキを

アンドレの家に連れて行ってあげる!

と言った時

 

今度はどのアンドレ?

だって

アンドレ・ブルトンは死んじゃってるしね

って聞いたら

アンドレ・ピエール・ド・マンディアルグよ!

って言った

 

リュースは

いよいよ狂ってきちゃってるかな?

と思ったら

数日後に

アンドレがおいで

って

言ってるわよ

と伝えにきたので

マレー区の

マンディアルグの家に

会いに行った

という

わけ

 

ぼくは今でも

マンディアルグのことは

マンディアルグさん

呼んでいる

わけ

 

もう歳を取っていたけれど

マンディアルグさん

好きな作家のことには熱弁をふるっていた

ミシマが大好きで

『薔薇族』の写真が書斎の執筆机の前に貼ってあったし

バタイユから直接貰ったこの本

これはおもしろいんだよ

と重いのを出して来てくれて見せてくれたし

ブルトンがどう言ってたとか

グラックがこんなこと言ってたとか

そこらへんの話はずいぶん

してた

いくら老いても過剰な逸脱系が

大好きで

大好きで

たまらないっていう人!

 

もう

古い古い

いにしえの

お話

 

リュースの霊

マンディアルグさん霊の

安らかならんことを!

 

 




0 件のコメント: