2012年4月17日火曜日

主語なしで語り出された第一連をあなたに


                             もう何も言うことはない。
                           (ルイ=フェルディナン・セリーヌ
『夜の果てへの旅』)




どのように生きたらいいか
考えているうちに
どのように死んだらいいか
考える頃になった

いる場所は
青い海と空のあいだの
古い
奇妙なまで頑丈な
どこにも
鍵も閂もない
牢獄

壁もなければ
天井もなく
見張りもおらず
ただ
石と砂と
木材と
ふんだんな青草と
…たぶん
他にも
あらゆるものがある

空気を吸い
水を飲み
そこらに見つかるものを
食べてさえいれば
生きているのは簡単
しかし
すべきことを知り
すべきことを遂げるのは
なにより難しかった
先にここに来て
先に逝った人たちはみな
すべきことを見つけたと自認し
すべきことを遂げたかのように
あるいは
遂げられなかったかのように
騒いだり
黙ろうとしたりして
逝った

どの人のしたことも
し尽くせなかったことも
すべきことだったようには
感じられないんだな
あんまり

陽がのぼり
陽が沈み
時には夜じゅうの闇と
静寂を聞き続け
ぼくはぼくを続けてきた
いいも悪いもない
ぼくはあなたではなかったし
ぼくはあなたをしてこなかった

まるでガラス越しに
他人の取り調べをのぞき込むように
自分と関わりのない
話者の語りを
あなたはのぞき込むだけだと思ってきた
でもぼくは今あなたに語りを向け
あなたの意識に二人称のドアから入ってしまう
数連先まで流れてきた主題の流れが
むりにねじ曲げられ
語りはいまや
ぼくとあなたの関係を焦点化しようとしている…

さらにねじ曲げることもできる
主語なしで語り出された第一連をあなたに
ぎゅっと押しつけることも
――すなわち

あなたは
どのように生きたらいいか
考えているうちに
どのように死んだらいいか
考える頃になった

あなたの
いる場所は
青い海と空のあいだの
古い
奇妙なまで頑丈な
どこにも
鍵も閂もない
牢獄

壁もなければ
天井もなく
見張りもおらず
ただ
石と砂と
木材と
ふんだんな青草と
…たぶん
他にも
あらゆるものがある

…いまや
あなたの語る番だ
ぼくはあなたに耳を傾ける
ぼくはぼくを続けてきた
いいも悪いもない

もう
なにもいうことはない


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