国の中央にすら見捨てられたところが多くなる。
なお、そこに十分の一が残るが、それも焼き尽くされる。
イザヤ書6.12
震災のあとで
東北がんばれ!と言った人たちをほとんど信じなかったのは
アメリカが勝手にじぶんの利益のために始めたあのイラク戦争に
ほとんどの日本人はうるさく反対を表明しなかったし
ことにガザ空爆がひどかった時でさえ
なにもなかったかのように
テレビもふつうの人びとの生活も
どこ吹く風のありさまだったから
なにひとつ頭で考えずに自動書記して詩のように書くぼくは
下りてきた通信文句そのままに
いつかあなたがたの上にミサイルが来る
いつかあなたがたも大量死する
と詩のかたちでたびたび書いたが
もとよりたくさんの人目に触れるものでもなかったから
だれかに届いたわけでもなかっただろうが
ほぅら、来た…
と震災の時には思ったものだった
まだ来るよ
まだまだ来るよ
もっとすごいものが来るよ
2011年の大震災はまだまだよかったんだねえ
みんながそう思う時が迫っているんだよ
とぼくは言っておく
そういう通信が来ているから
くわえて言っておけるのは
これが生き甲斐とか
これが人生の楽しみとか思えるものを
いまのうちに迷わずにやっておきなさいということ
それらはほんとうにできなくなる
やる場所もお金も時間も
そもそも体もなくなってしまうから
しかし
日本人はまだまだ災害には慣れている
地震と台風に練られて数千年暮らしてきたのも伊達ではない
死んでしまったのならしょうがないとか
死んだら死んだで生き残った者がなんとかしていくほかにはないとか
そういう転換ぶりもやはり大したもの
すぐ近くでさえ外国諸国はこうはいかない
これから世界中に起こっていくことは
日本が経験してきた災害やこれからも経験する災害どころではない
人びとは死体の上に眠り
死者の腐肉や血さえ無駄にしないように口にするだろう
美しかった石造りの街はそのまま石の墓場になる
構築的な思考の文化はそのゆえに化石化する
あまりに多くの街が海に沈むので誰も記録さえしなくなるだろう
記録はもはや電磁的にはできず
紙は水に流されあるいは黴に侵され燃え果て
石に刻む技術を持った者たちがふたたび必要とされるだろう
朝から晩まで死が来る
死が来続ける
さっきまで生きていた人が夜には腐っていく臭いに街が満ちる
戦闘兵器を大量生産した国々は
国土がそれらで夥しく汚れていくのを経験し
生き残った者たちはまるで朽ちた金属の山々に生息する動物のように
金属色の肌だけを持つようになるだろう
よくよくあなたがたに言っておく
もう十年はもたない
十年後にあなたがたの家族はなく街はなく国は破れた旗のようになっている
はやめに死んだ者たちはさいわいである
生きて腐っていく苦しみから逃れられるから
各地で海へ集団で身投げするイベントが企画され
美しいことで有名だった海には多くが詰めかけるだろう
数百人身投げイベントは毎日のようになされ
時には数千人身投げイベントさえ催されるだろう
すべて地球が再生していくためには避けようがない
地表にとって人間は常在菌のようなものに過ぎなかったというのに
それをまず悟るべきだった人間の理知は本当の理知ではなかったので
自分が寄生している身体を甚だしく損なうことになってしまった
遅すぎることはないなどという気休めは
ビジネス書の軽薄な字数埋め用の言葉にはなっても
真実の前では意味を持たない
遅すぎることはあり
高所から身を躍らせた者が
遅すぎることはない
などと思いついてもなにもならない
楽しいと思うことをやっておきなさい
遠くないうちにそれはできなくなる
楽しいことなどなにもない時代がくる
みんなで海に身投げしたり
油をかぶって大人数で火の柱になったり
殺しあいをして最後の興奮を味わったり
意味もなく他人を嬲り殺したり
刺したり切り殺したり
そんなことの他には
下卑た楽しみさえ味わえない時代が来る