台所で思い出す死者が
おなじように
死者を思い出す台所が
おなじように
思い出す死者の台所が
おなじように
生者も死者も死んでて
おなじように
思い出の中でみな生きてて
おなじように
思い出の成立時点で死んでて
おなじように
何人も過ぎていった
おなじように
だれもかも過ぎていった
おなじように
関わった日々とともに
おなじように
関わらなかった日々とともに
おなじように
思い出されるために
おなじように
思い出されなくなるまで
おなじように
思い出されなくなるために
おなじように
思い出しあわなくなるまで
おなじように
思い出しあわなくなるために
おなじように
出会いさえしなかったかのように
おなじように
おなじように
春に も
桜 に も
ま っ た く 興味 を 失 っ て
か ら
プラスチック の
透 明 舟 で 宙 を
浮い て い く ぼく
魅 惑
湧く 青 の
空 なんか
で な く
笑 顔
に なる 直前の
頬
口もと の
お肉 な
ひ、 と、 よ、
し ばらく
憩う
あなた の
た、 わ、 た、
わ、
世間のほうを向かぬ思念を
編もうとしても
ひとのいない坂道や
立ち枯れた
大きな向日葵を使って
進もうとしがちには
なるだろう
あたまのなかを
それが
世間でないなどと
まさか
甘い考えを持っては
いまいな
じぶん自身が
もっとも世間だと
思い到っていないなどと
まさか
なわばり争いが好きなんだなと
思い知らされる
こちらにまで押しつけられる
なわばり争い
国のため
未来のため
われわれのため
というが
じつはどれも
ほんとうに味方だったことも
なくって
見知らぬ田野を
速すぎるでもなしに
進む列車
田も畑も林も
まだまだ肌寒そうだが
もの皆が
いのちのはじまった頃を
思い出し直す春が
やわらかい衣を
いちめんに敷いている
行く先はわかっているが
そんな地点をこえて
こころは
もっと遠いところへ
それも
ずいぶんゆっくり
また向かい直すことに
決めたらしい
憩いの
戦場
たんぽぽが
ぬるっと光って
地べたを這いつくばり
まだ遠い
低気圧
古めかしい
アイスキャンディーを
舐め舐め
ひらがなで
呼び直してみる
あいす
きゃんでぃー
未整理のがらくた箱のように
facebookを使っている
撮った写真のうちの
素人なりにちょっとマシなのを保存したり
他人が出してくる素晴らしい写真や
おふざけが楽しいあれこれを保存したり
そんな用途にはとってもいい
健康によさそうな小ネタや
問題ばかりの世の中について
ちょっと引き出しになりそうなものを
スクラップしておくのにも
ただそれだけのことなのに
大仰にfacebookはダメだとか
危険だとか
登録していながらも
使うのを絶対に拒否する知人もいる
各人各様で
どうでもいいことなのだが
あんなものの使い方や拒否のしかたでも
自我をガキガキ出さずにおれない
人間というものの
あわれさ
わたしは非表現と
反表現の層に書きものをし
たまたま現象界に洩れ落ちる
文字
その黒い線たちを
たぶん
悪戯心から
消さないで放っておく
ぼくが持ちたくもないものを
どうだ
いっぱい持っているだろう
なんて威張られても
感心もしないし
困りもしないし
そういったものを
ぼくが持っていないからって
哀れなやつだとか
わびしいとか
そう思われても
陰でなんやかや
言われても
…なんというべきだろう
ちょっと遠くから
こちらに吼える
繋がれた犬たちのよう
なんだか
騒がしいようだな
あのあたり
ほこりのように
吼え声がしている、と…
もわっと
遠くの一点に固まる
そんな
春のひとこまに
たゞ
なってしまうだけ
冷たい蕎麦が
とぅるる
食道を落ちていく
気持ちいい
春に
またまた
なりにけるかも
なりにけるかも
みんな
しあわせごっこをしているだけ
比べあって
こっちとむこうと
どっちがしあわせかと
ぶつぶつ
つぶつぶ
判定しつづけているだけ
さいごには
でもこっちがしあわせ
こっちこそ
真のしあわせ
などと〆たがって
あんな中で
どうして生き残れたのか
そうしてまた
あんな安全なところで
どうしてひとりだけ
逝ってしまったか
からだだけが
わたしのいのちと思うかぎり
いつまでもほんとうのからだは
把握できない
ここに
このようにいるふしぎ
あそこに
あのようにはいない
ふしぎ
空も地もからだで
肉体の息の根を止めようとするものさえ
からだだと知るまで
わたしたちの学びは続く
伸び続けたすえの
枝の先の先
開いた花のめしべの先の
つやつやした
ネバネバ
わたしはそれに過ぎず
遠い遠い
ふかい大きなからだから
ほそく伸びてきたに過ぎないと
知るまで
紅葉が
チョコレートのジェラートに
すこし凍え
コバルトブルーに
なり切る夢
たえず
微細に震え続ける
細い糸が
目に触って
かすがす
かすがす
意味もよくわからないまゝ
発していると
赤紫の深い色の車が
ゆるりと走り来て
だれかを攫っていくとともに
だれかを降ろしていった
夢
これも
背の
シャツの襞を
触っていたのは誰?
目に見えなくなったからといって
見えなくなった
わけでは
ないでしょ
暗い午後の船着場の倉庫に
行かなければいけない
行かなければいけない
けれども
雑草の疎らすぎるのは心ぼそいなぁ
もっと
あの人の肌に触れておくべきだったと
後悔
ではないが
心ぼそい
(太陽も
(長いこと上っていなくて
掌の
(しかたなく
ある個所を
すこし強く指の先で
爪先で
押してみては(たぶん、ふいの泉
(湧出などを
(願って
(いる
ただの思いつきから
古い感傷的な詩を気取るように
(ちょっと猥褻さも伴って
処女!
と言ってみる
処女!
処女!
と
ガーゼでできた大きなローブを着て
どこか恐ろしい人影が
しだいに近づいてきて《処女!》となるように
いや、ならないように
処女!
処女!
とまるでお祓いのように
孤独やさびしさはクリームソーダの色どりによく
ヤシの木から下りてきたポンスを
みじかい時間なら引きつけておけるだろう
やつが飽きてしまったら
それはそれ
またいつもの問題のぶりかえし
真夏の大都会の雑踏のなか
サングラスをちゃんとかけさせ
めんどうでないなら日傘もささせて
ジャンヌをやらせよう
しろっぽいワンピースを着せて
なにか人生に目的でもあるかのように
きびきびとしたはや足で
数十区画を廻らせればいいだろう
戻ってくる頃には
クリームソーダが溶けて温くなるように
わたしなど死んでしまっている
もちろん夜になれば生まれかわるから
はやまって葬儀など頼まないように
死体は放っておいてくれ
ラフマニノフの交響曲第2番の第3楽章でもかけて
夏の夕暮れを見守っていてほしいところだが
ただ風に鳴る鉄箸を響かせておいてくれるほうが
よほどいいかもしれない
とにかくクリームソーダが大事で
とにかくそういう時代なのさ
とにかく
とにかく
なにかの間違いで
エネルギーのあり過ぎるように
見える人たち
人間のつながりということについて
まだ希望を
持ったりしているのらしい
以前なら
それを
茶を飲みながら眺めたが
いまは
真水を飲みながら
それを
眺めない
パットン将軍は言っていた
「もし戦争がなくなったら
「われわれはどうやって生きていけばいいんだ
そう、もし戦争がなくなったら
軍人は職業を失う
食いぶちを失う
しかし
それ以上の意味がここにはある
わかるまい
この世だけしかないと信じている人には
ほんとうに戦争だけのあの世があり
軍人100パーセントという魂がある
そういうところから
この世に来ている大勢の者たちもいる
だから
戦争をなくそうという思いも
スローガンも
あまりに深い深い理由から意味をなさない
戦争反対、だの
平和を守れ、だのは
情況と締めつけがまだまだ甘いうちの
戯言
ほんとうに始まれば
雄弁家さんたちはみごとぴったり口を閉ざす
戦争万歳の側にいつのまにか紛れ込む
できることといえば
なんとか目立たなくするだけ
あとは巻き込まれ
蹂躪され
殺し殺され
大事なものを失って
ぼろぼろ
死んでいくだけ
さあゲームのはじまりです
戦争反対と叫んでいるあなたが
どのあたりから
どのように
万歳を言い出すか
仕事や家や家財や家族を失いそうになったら
あなたはどこまで
主張を続けられるか
そんな見せ場が満載のゲーム
人類にはおなじみのいつものゲーム
大昔から先祖代々慣れ親しんできたゲーム
さあゲームのはじまりです