2015年8月11日火曜日

確認し直している…



    …此処だけは、
   谷の向う側はあんなにも風がざわめいてゐるといふのに、
   本当に静かだこと。
掘辰雄  『風立ちぬ』




死んだ友について書いた自分の文を
時たま読み返しながら…

病中から亡くなった後まで
私あれほどのかなりの負担がかかったとはいうものの
それでも
住居や最低限の物品
生きているかぎり続く数々の手続きなどの渦のなかで
彼女は可能なかぎり
軽く生きていたことは確かだった…

…そう確認し直す

逝きかたも
鮮やかなまでにさっぱりしていたと
確認し直す…

その死後
私は自分の多忙な生活のかたわら
彼女の住居を借り続けたまゝ
10か月もかけてひとりで家財や遺品の整理をし
諸手続きをこつこつと終わらしていき
当時は疲労困憊し切っていたものだったが
…それでも
ひとりの人が重病に見舞われて亡くなっていく場合としては
かなりシンプルなものだった
やはり言えまいか…

だれであれ
かりに自分がいま急死したとしたら
死の時まで保持せざるをえない自分の住居や
その中を埋めている厖大な物品
記念写真や思い出品の数々
銀行から不動産
クレジットカードや携帯電話の契約に到るまで
すべてを
だれが
自らの生活時間を削りながら
どのように動いて
ひとつひとつ処理し
整理し
売却し
廃棄し
解約し
ゼロに戻してくれるか

想像してみれば
ひとりの人の死というものがどれほど大変なことか
どれほど物質的なものか
すぐにわかる

死に伴うそういう事態において
伴う作業において
あゝ彼女の場合はまだ
なんと軽いほうだったか
確認し直している…




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