あつき日は心ととのふる術もなし
心のまにまみだれつつ居り
暑くして耐えがたきときに君おもふ
七年まへのそのあかつきを
(芥川氏七周忌)
斎藤茂吉の歌集
『白桃』の
このあたりの歌を読み直していたら
むこうの部屋から
妻が鼻歌して
なにかの歌のメロディーを奏でて
「これ、なんだっけ?題名」
と聞いてきて
茂吉の韻律の秘密に触れつつあったのが
たちまち
思念は路線切り替えされて
その歌のほうへ
飛んでいった
曲はわかっているが
タイトルは
サッとは浮かんでこない
有名な部分だが
はじめのほうを鼻歌されているのでないからか
タイトルに
サッとは記憶が行き着かない
メロディーを引き取って
頭のなかで反芻しているうちに
だんだんと
歌詞が浮かび上がってきて
In other words, hold my hand !
In other words, darling kiss me !
このあたりだと
わかってきた
ああ、これは
ジュリー・ロンドンが
魅力的に歌っていた
あれ
なんだったっけ?
そう思いながら
スマホからYouTubeで
「ジュリー・ロンドン」を検索すると
そうか
《Fly Me to the Moon》
だったと
ようやくわかった
ひさしぶりに聴いてみると
やはり
いい歌詞だ
これを大ヒットさせた
フランク・シナトラの歌い方のほうは
ジュリー・ロンドンより
リズムごとのまとまりが際立っていて
軽さとちからが
くっきりとかたちを成している
シナトラの
持ち歌かと思うと
違っていて
最初にレコード化したのは
ケイ・バラードだし
次には
ペギー・リーが録音している
シナトラによるカバーは
そこから4年後で
けっこう遅い
バート・ハワードが作詞作曲して
フェリシア・サンダーズが初演した時は
タイトルも
《In other words》
だったという
タイトルを
《Fly Me to the Moon》に変えた時点で
商業作品として
大きな飛躍を遂げたわけだが
《In other words》
という
元のタイトルも
リフレインでくり返される部分も
とてもいい
In other words, hold my hand !
In other words, darling kiss me !
このセリフを
ぼくに
言えた女たちと
言えなかった女たち
がいた
と思い出す
言えた女たちのなかでも
さらに
《Fly Me to the Moon》と
ぼくに言った女は
いまの妻しか
いない
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