2024年10月29日火曜日

終わりなく稲穂がぶつかりあう響きのなかに


 

 

 

斎藤茂吉の

 

秋風の遠(とお)のひびきの聞こゆべき夜ごろとなれど

早く寐(いね)にき

 

(秋風の、味わいのある遠い響きが聞こえるはずの夜なのだが、

はやく寝てしまったよ)

 

を読み

5才頃から10才頃の

田畑に囲まれた田舎での秋を思い出した

 

新しくできた団地は

東西南北

田んぼに分厚く囲まれていて

真新しい部屋に移り住んだぼくは

稲たちが穂を伸ばして

夏から秋にかけて

風のたび

台風のたび

ぶつかりあって鳴りに鳴る音のなかで

朝を過ごし

昼を過ごし

夜を過ごした

 

『風の又三郎』のなかの音が

すんなり親しく

受けとめられたのも

そのせい

 

稲たちの穂のぶつかりあう音のなかに

きっと不思議な存在が

縦横無尽に自由に飛びまわっているのだろうと

ほんとうに

信じて疑わなかった

 

きみは稲穂のぶつかりあう響きのなかで

少年期を過ごしたことがあるか?

 

夢からふと覚めると

終わりなく稲穂がぶつかりあう響きのなかに

どこまでも

吸い込まれていくような経験を

きみはしたことがあるか?

 

だれにであれ

しつこく

そんな質問をしたくなる時が

ある

 

終わりなく稲穂がぶつかりあう響きのなかに

どこまでも

吸い込まれていくような時空から

ぼくは来たのだと

しつこく

言い募りたい時が

ある

 

 




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