2024年10月16日水曜日

読み手であって書き手ではない

 

 

 

 

パラケルススは一人になった。

ランプを消し、

使い古した肘掛け椅子に腰を下ろす前に、

わずかな灰を手のひらにのせて、

小さな声である言葉を唱えた。

薔薇は蘇った。

ボルヘス 『パラケルススの薔薇』

 

 

 

 

ボルヘスの最後の短編集『シェイクスピアの記憶』*

内田兆史氏の解説によれば

ボルヘスは

「書いたものよりも読んだものを誇りたい」

「作者であるより読者でありたい」

と語っていた

 

また

「読み手の役割がもっとも重要なのだ。

読み手であって、書き手ではない」

「読み手が書き手の仕事を引き継ぐのだ」

と信じていた

 

あらゆる造形や工芸

美術や音楽や創作のたぐいにおいても

同様だろう

 

さらに

拡大解釈されてよい

 

世界創造や造物よりも

世界を受けとめて「読んだ」ことを誇りたいし

世界の受けとめ手こそが重要なのだ

 

鑑賞者や観察者

読み手や

読み解き手がなければ

神は悲しむだろう

世界を生きる者や読み解き手こそが

神を引き継ぐのである

 

 



 

J.L.ボルヘス 『シェイクスピアの記憶』(内田兆史・鼓直訳、岩波文庫、2023

 




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