夕食では油物も食べたので
皿などの汚れをティシュで拭いてからシンクの中に置き
洗剤をすこし撒いて水を溜めておいた
このようにして
皿などに水を溜めてしばらく放っておくのは
馬鹿にならない
これだけでも
かなりきれいになってしまう
こうして放っておいた食器類を
深夜の二時もまわってから洗い出した
湯を出して洗っていったが
ふいに
あたりまえのことのようながら
いま湯に触れている
湯に触れることができている
湯に触れるということを経験できている
という
強い認識が来た
洗剤を泡立てて
湯で洗っている食器類の手ざわりや
重さやかたちなども
手指の筋肉や肌に鮮やかに感じられた
あたりまえのことのようながら
というより
まったくあたりまえのことながら
湯に触れるというのはこういうことで
食器類に触れるというのはこういうことなのだと
感じ直し
認識し直し
あらためて受けとめ直した
使っているのは
高価でもないありきたりの食器類で
大地震でも来て破損してしまえば
そのまま燃えないゴミとして集められていくだろうし
わたしがふいに死んで
整理業者が入ってくれば
やはり燃えないゴミとして回収していくに過ぎないだろう
しかしひとつひとつが
さまざまな事情や縁があってわたしの元に集まってきた食器類で
ひとつひとつがわたしの過去の瞬間瞬間を蔵している
ただ湯で食器類を洗うというだけのことなのに
生きていればこその
しかもわたしひとりに集中した
独自の一回きりの縁の集中が起こっていて
かなりの言葉を費やしても語りきれない豊饒さに
目がまわるようだった
ともあれ
ただの食器洗いでも
湯に触れられて
水に触れられて
いいなあ
また経験してみたいなあと
体を失った霊たちは
きっと
羨ましげに見続けている
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