2011年5月22日日曜日

夢の流れにしたがって



夢のなか
プラタナスの大樹が
北側の窓からよく見える四階に
両親と弟は移った

秋がはじまっていた
色づいてきた葉が
窓からいっぱいに見える
こんなに近いね
うちの木のようだね
そう言いながら
秋にしては暑い晩
短パンをはいて
家族いっしょの食事をとった

ぼくはぼくで
頑丈な石造りの
小さな城を訪ねるようになっていた

数世帯が各階を占めている城
自転車で着くと
入口の前にデンと据えられた
プラスチックの大きな電飾を避け
ときにはその上を踏んで
石の坂を登っていく
この奇妙な賃貸住宅の
人寄せのための電飾なのだが
入口に至るスロープでじゃまをしている

スロープにはいつも
男の子がひとり
膝をかかえて座っていた
やあ、と言うと
やあ、と返してくる
電飾を避けて上ろうとして
ちょっとよろめいたりすると
助けてくれることもある

ある日ぼくは
電飾の上をどしどし歩いて
入口に向かおうとした
すると電飾がたわみ
いまにも真っぷたつに折れそう
足をとめて様子を見ていると
そんなに乗っちゃだめだよ
それは乗り過ぎだよ
男の子が言って
ぼくに手を差し伸べてくれた

夢のなか
ぼくは気づいた
これは夢だ
ぼくに手を差し伸べてくれるなんて
夢だ
だれひとり
手を差し伸べてなどくれなかった生だもの
ここぞというところで
人の手はなかった
ぼくはすっかり孤独で
いつも自分のものでない城に赴き
入口では電飾にじゃまされ
それでもよろめきながら
入っていこうとしてきたのだ

そう気づきながらも
男の子の手を握り
ぼくは城の入口に辿りついた
きみも夢
このすべてが夢
そんなことはわかっているんだ…
とは
言わなかった

たぶん
はじめて言わなかったんじゃないかな
夢の流れにしたがって
そのまま
夢の気を損なわないよう
流されていく
たぶん
こうするのは
はじめて

スロープにはもう
電飾もない
ぼくの自転車もない
さっきまで手を引いてくれていた
男の子もどこへ行ったろう

夢の流れにしたがって
そのまま
夢の気を損なわないよう
流されていく

はじめて
いま
城に入る

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