2012年12月17日月曜日

豊かで生きることの核にいるぼくら




神崎くんと
授業の後で話した

神崎くんはボ~ッとしている
上の空ではないが
ちゃんと頭に入っているのかな
授業の内容は

どんより曇った秋雨の一日
いつもの蛍光灯では
教室も廊下も暗い
来ている学生も少なく
どこかの
浅い暗い海の底を
サメのまねをしながら
の~ろり
の~ろり
うねって進んでいるみたいな
ぼくら

―こんなうす暗い日、
ぼくらの生は
なんだか本質に近づくようだね

そういうと
神崎くんはピンと反応し

―そうです、明るいふだんの
町や教室って
強いられている
うそっぱちの舞台みたいで…

その後ぼくらは
ひとしきり
昼食時間にずれ込むのも忘れ
しばらく話した
神崎くんのいちばん興味のある
死のこと
生のはじまりのこと
死後がどうなっているのか
わからなければ
この世の倫理も計画も
成り立たないこと
そんな懐かしい
問題の数々を

目をむけると窓から
遠くの高いビル数本が見え
今日という暗い日
どれも薄雲にかくれて
なにか秘密ありげな
岩の大きな塔のように見える

―神崎くん、あれ、いいね
町はいつも
あんなふうであるべきだね

―ええ、そうです
いくらなんでも
秘密が無さすぎの町です
ぼくらがいるのは
秘密があるかどうかより
秘密があるように
見えていてほしいものです

…おっと、
用事があったのだ
行かなければいけない…

―それじゃあ、またね
今日はほんとに
暗くて
嵐の近づく海の底のようで
いい日だ
ね、神崎くん…

そうして
ぼくは廊下に出ていく

神崎くんは
菓子パンを出して
いそいで昼食をとり
つぎの授業の
先回のノート分を眺めたり
死のこと
生のはじまりのこと
死後がどうなっているのか
わからなければ
この世の倫理も計画も
成り立たないこと
そんな懐かしい
問題の数々を
ふたたび
思いはじめるだろう
くりかえし
くりかえし
なんども

そんな懐かしい
問題の数々を
くりかえし
くりかえし
思うことが
豊かで
生きることの核なのだと
ぼくらは
知っているから

神崎くん
答えは出ている

懐かしい問題の数々を
くりかえし
くりかえし
思う
豊かで
生きることの核にいる
ぼくらだ



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