2014年1月7日火曜日

いけない



詩にこころを表わしてはいけない
喜怒哀楽なんてもってのほか
文章のように意味が伝わってはいけない
過去の詩の模倣なんていけない
ことば遊びやナンセンスであるべきだがそればっかりでもいけない
漢字ばっかり多過ぎるのもいけない
ひらがなやカタカナの調合ぐあいを適宜考えないといけない
ひらがなばっかりもたまにはいいがたまにはネという程度でないといけない
中国詩はいいとしても現代日本語であの内容では骨董老人じゃないですか
もちろん今どきシュールレアリズムなんていけない
ダダだなんて古風な老人のおふざけしてんじゃないのヨ
文科省が認めるような毒のない詩だってもちろんいけない
品行方正な人が小心翼々と書いたと見られるようなものではいけな
どこぞの商売に益するような書き方をしてはいけない
既得権益を擁護してどこかの団体のポチになろうとするようなのもいけない
教科書に載ってしまった詩人の詩なんかもちろん排除しないといけない
良家の子女にお勧めできるような詩なんてコンビニ商品だわナあれ
懐風藻ならいいよねなんて言っているアホはどなたさまかな?
古典という古典ははすべからくいけない
すぐにランボーとか言い出す早漏くんもいけませんねえ
とにかく昨日あなたが読んだようなものをくり返してはいけない
とにかく昨日あなたが書いたようなものをくり返してはいけない
もちろん左翼的な価値観をいれてはいけない
もちろんサヨサヨ風になびいていなければいけない
もちろん右翼的な価値観をいれてはいけない
もちろん紆余曲折しまくっていなければならない
詩語なんて使って不用意に書いてはいけない
自然描写に逃げたり現代風俗を写すなんて安易な逃げを打つなよナ
あかるい未来が云々なんて(東電じゃないんだから)いけない
かといって煮詰まったアングラぐらぐらしててもいけない
小さい子が言う「ボク、おしっこ!」の突き抜け感がないといけない
そうか、「キミ、オシッコか!」と瞬時に答えるようでないといけない
いけないいけないばかり言っていてもいけない
かといって「これでいいのだ!」ももうバカボンのパパに取られているし
だいたい仏教の行者やヒンドゥーの行者に取られてしまっている
バカボンというのはバガバッド・ギータのバガバッドだという説もあるノダ
面白いナこれいいナと思ってもかっぱらったり安易に借用してはいけない
たった今この場で作り出しましたっていう手作り感がほしいのよ詩には
だから「現代詩」はダメなのよ60年代70年代ファッションだから
もちろん懐メロのヘンな面白味はあるにはあるけれど
重ったるくなるよねああいうのばっかりに小一時間もつき合っていると
だからって中也や賢治がやっぱりいいっていうことにもならない
光晴さんが中也や賢治なんてものはアリャアだめだぜと言ってたし
いやいや光晴さんだってぜったいにいいってわけじゃないんだぜ
あのひとじつはヘタじゃないかっていつも思うよ読んでいるといつ
ろくに読みもしないやつが金子光晴はすごいぞなんて言っている
すごいといえばさびしい言葉やねん「すごい」って
けっきょく何でもかんでも「すごい!」「すごいですねえ!」じゃないか
どんなに苦労しようがやり遂げようが物みな「すごい!」と言われて終わり
こういうのを「すごい!」至上主義と呼んでもうもう超克すべきだと思うよ
すごければいいのか、ええ?…ってなもんでしょ
だから詩はすごくないものを目指すべきです、はい。と言いたくなるわ
すごくないって、スッゴーイ!っていう受け答えが必ず出てくるだろうけどな
スッゴクナーイ!っていう褒め言葉は定着しないもんかね、21紀中は?
もっとシブく侘び寂びでいかなきゃあけまへんナ
それだってシブーイ!って言われたりするモードはすでにあるし
侘ビー!とか寂ビー!とかっていうのもナァ
けっきょくは「スゴーイ!」っていうことだから堂々めぐりってやつヤ
…とここまで風景描写などナシに進めてきたけれど
ドヤ?山部赤人しなかった結果は?
とはいえセリフだけで小説を書いたナタリー・サロートふうではあるかな
ベケットふうでもあるかもしれないし
セリーヌふうでもあるかもしれないが
そこはそれ
そこはそれ
とごまかしちゃいけません
過去の模倣はいけないんだし古典の助けを求めちゃいけないんだし
ああこうなってくると「友の手はない!救いをどこに求めよう?」なんて
みなみらんぼうマイナスみなみが書いていたのもわかるというもの
Mais pas une main amie ! et où puiser le secours ?*っていう、これ
ほらまた出てきた、らんぼう
らんぼう
らんぼうはいけないって
警察も言ってるっていうのにさ



*Arthur Rimbaud : Une saison en enfer, Adieu.

                                 
   




0 件のコメント: