詩にこころを表わしてはいけない
喜怒哀楽なんてもってのほか
文章のように意味が伝わってはいけない
過去の詩の模倣なんていけない
ことば遊びやナンセンスであるべきだがそればっかりでもいけない
漢字ばっかり多過ぎるのもいけない
ひらがなやカタカナの調合ぐあいを適宜考えないといけない
ひらがなばっかりもたまにはいいがたまにはネという程度でないと いけない
中国詩はいいとしても現代日本語であの内容では骨董老人じゃない ですか
もちろん今どきシュールレアリズムなんていけない
ダダだなんて古風な老人のおふざけしてんじゃないのヨ
文科省が認めるような毒のない詩だってもちろんいけない
品行方正な人が小心翼々と書いたと見られるようなものではいけな い
どこぞの商売に益するような書き方をしてはいけない
既得権益を擁護してどこかの団体のポチになろうとするようなのも いけない
教科書に載ってしまった詩人の詩なんかもちろん排除しないといけ ない
良家の子女にお勧めできるような詩なんてコンビニ商品だわナあれ は
懐風藻ならいいよねなんて言っているアホはどなたさまかな?
古典という古典ははすべからくいけない
すぐにランボーとか言い出す早漏くんもいけませんねえ
とにかく昨日あなたが読んだようなものをくり返してはいけない
とにかく昨日あなたが書いたようなものをくり返してはいけない
もちろん左翼的な価値観をいれてはいけない
もちろんサヨサヨ風になびいていなければいけない
もちろん右翼的な価値観をいれてはいけない
もちろん紆余曲折しまくっていなければならない
詩語なんて使って不用意に書いてはいけない
自然描写に逃げたり現代風俗を写すなんて安易な逃げを打つなよナ
あかるい未来が云々なんて(東電じゃないんだから)いけない
かといって煮詰まったアングラぐらぐらしててもいけない
小さい子が言う「ボク、おしっこ!」 の突き抜け感がないといけない
そうか、「キミ、オシッコか!」 と瞬時に答えるようでないといけない
いけないいけないばかり言っていてもいけない
かといって「これでいいのだ!」 ももうバカボンのパパに取られているし
だいたい仏教の行者やヒンドゥーの行者に取られてしまっている
バカボンというのはバガバッド・ ギータのバガバッドだという説もあるノダ
面白いナこれいいナと思ってもかっぱらったり安易に借用してはい けない
たった今この場で作り出しましたっていう手作り感がほしいのよ詩 には
だから「現代詩」 はダメなのよ60年代70年代ファッションだから
もちろん懐メロのヘンな面白味はあるにはあるけれど
重ったるくなるよねああいうのばっかりに小一時間もつき合ってい ると
だからって中也や賢治がやっぱりいいっていうことにもならない
光晴さんが中也や賢治なんてものはアリャアだめだぜと言ってたし ね
いやいや光晴さんだってぜったいにいいってわけじゃないんだぜ
あのひとじつはヘタじゃないかっていつも思うよ読んでいるといつ も
ろくに読みもしないやつが金子光晴はすごいぞなんて言っている
すごいといえばさびしい言葉やねん「すごい」って
けっきょく何でもかんでも「すごい!」「すごいですねえ!」 じゃないか
どんなに苦労しようがやり遂げようが物みな「すごい!」 と言われて終わり
こういうのを「すごい!」 至上主義と呼んでもうもう超克すべきだと思うよ
すごければいいのか、ええ?…ってなもんでしょ
だから詩はすごくないものを目指すべきです、はい。 と言いたくなるわ
すごくないって、スッゴーイ! っていう受け答えが必ず出てくるだろうけどな
スッゴクナーイ!っていう褒め言葉は定着しないもんかね、21世 紀中は?
もっとシブく侘び寂びでいかなきゃあけまへんナ
それだってシブーイ!って言われたりするモードはすでにあるし
侘ビー!とか寂ビー!とかっていうのもナァ
けっきょくは「スゴーイ!」 っていうことだから堂々めぐりってやつヤ
…とここまで風景描写などナシに進めてきたけれど
ドヤ?山部赤人しなかった結果は?
とはいえセリフだけで小説を書いたナタリー・ サロートふうではあるかな
ベケットふうでもあるかもしれないし
セリーヌふうでもあるかもしれないが
そこはそれ
そこはそれ
とごまかしちゃいけません
過去の模倣はいけないんだし古典の助けを求めちゃいけないんだし
ああこうなってくると「友の手はない!救いをどこに求めよう?」 なんて
みなみらんぼうマイナスみなみが書いていたのもわかるというもの
Mais pas une main amie ! et où puiser le secours ?*っていう、これ
ほらまた出てきた、らんぼう
らんぼう
らんぼうはいけないって
警察も言ってるっていうのにさ
*Arthur Rimbaud : Une saison en enfer, “Adieu”.
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