2015年2月7日土曜日

恋愛小説しか読まないお爺さん



そのお爺さん
だいぶ前に都立図書館で出会ったのだけれど
恋愛小説しか読まない人で
およそレンアイという雰囲気から遠い感じなので
逆に印象ぶかいひと

明治からこっちの恋愛小説はよく読んでいて
特に昭和から平成の恋愛小説は
ほとんど知っているのではないかと思わされるくらい
あの小説のあそこの別れの場面はよかったとか
あっちの小説の初夜のところは
あれは失敗だとか
こっちの話の百合子はひどい女だねとか
義男だってあんなことをしちゃダメだとか
まるで近所で起こった痴話噺みたいに
後から後から話すこと
話すこと

ひさしぶりに会ったので
最近はいろいろと世界が騒がしくなってきましたね
と話かけると
お爺さん
新聞を読まないで小説ばっかり見ているから
なにが起こっているか
まるで知らずに
ほう
世の中はいつも騒がしいもんですよ
朝鮮で戦争があった時も、アナタ
新宿で大乱闘があった時だって、アナタ
というぐあいで
昔も今も一緒くたで

きっと
いつの頃からか悟ったのだろう
世の中の騒ぎをニュースで追っていたって
じぶんの中のなにかを求める思いは満たされない
おんなじ時間を
大好きな恋愛小説にだけ使おうと
そのほうが豊かだと

お爺さんに
世界のごたごたをなんにも話さなくなって
ひさしぶりだからって
角の甘味処でぜんざいなんかをいっしょに食べて
濃いめの緑茶をいっしょに飲んで
あの小説じゃ美智子がこういうところで白玉をネ
それをサ
宏が「クリーム蜜豆のほうがおいしいんだよ」とかチャチャ入れてサ
とつき合いながら
そこの家の庭の白梅
ありゃあいい香りですね
うん
あそこのはいつも早咲きでネ

などと迎える
今年二月の
第二週の晴れた某日




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