寒くなってきた日々のうちの
ひとつの日
きょう
もう室温は15度くらいなのに
まだ暖房をつけず
涼しさを感じ続ける
思い出される
寒かった日々の数々
数年前
十年前
数十年前
と思い出はさかのぼり続け
しあわせな寒さだった
幼少時の
冬の日々に到る
……おや、
家に誰もいないのはどうしてか
みんな
買い物にでも出たのか
ひとり
風邪でもひいて
灯油ストーブのあかあかと燃える部屋で
夕ぐれ
まったくの異界につれ去ってくれる
ぶ厚い本を
ときどきは退屈もしながら
読み続けているのか
テーブルには
みかんがいくつか置いてあって
その小さなオレンジ色が
この世の冬の幸福そのものに見えている……
思い出のなかの
その少年に
なにか
呼びかけようと思いながら
なにを言ったらいいか
なにを言わないようにしたらいいか
まよったまゝ……
たぶん
いまのじぶんも懐かしく見つめられている
もっともっと
時間を経た後のじぶんから
たとえ
死のまぎわのじぶんであるにしても
あるいは
からだやいのちを
すっかり脱いでしまった後のじぶんであるにしても
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