掃除機をかけていたら
無性にサガワミツオが聴きたくなってきて
マイッタ
すぐに戻るつもりでちょっと出て
帰った時には
寒い師走のたそがれ
いい天気の午後だったので
布団だのなんだの
干したまゝ出かけたものだから
大いそぎで取りこまなきゃ
その前に
寝室をサッと掃除機がけしとかなきゃ
と
まァ
せわしない掃除時間
そうして
モーター音をがなり立て
掃除機
かけていると
なぜか
サガワミツオ
どうしてか
サガワミツオ
“遅かったのかい?”
“きみのことを”
“好きになるのが?”
という
あれ
「今は幸せかい」*の歌詞が
メロディーとともに
平成最後の師走のたそがれ
布団を取り込む前の
寝室掃除人の意識のなかに
漂ってくる
“ほかの誰かを”
“愛したきみは”
“ぼくを置いて”
“離れていくの?”
と鼻唄寸前
くっきりと思い出されてきて
脳内拝聴していると
なんと
まァ
くだらない歌
ある
ある
よくある
ありきたりのことを
未練たっぷり
うすっぺらな言葉
ならべて
“遅かったのかい”
“悔やんでみても”
“遅かったのかい”
“きみはもういない”
と歌ってきて
最後に
“いまは幸せかい?”
“きみはもういない”
と結ぶ
サガワミツオ
サガワミツオ
曲も簡単なら
歌詞も簡単なので
少年時代の下校時の鼻唄に
ちょうどよかった
サガワミツオ
サガワミツオ
別れた元カノや
元カレに
ひさしぶりに会って
それとなく向ける言葉なら
ジャズのスタンダードの
What's new?
のほうがはるかに素敵だと
まだ
知らなかった頃だから
下校時の鼻唄に
What's new?
How is the world treating you?
You haven't changed a bit
Lovely as ever I must admit.
How is the world treating you?
You haven't changed a bit
Lovely as ever I must admit.
なんて
もちろん歌わなかったし
ましてや
クリフォード・ブラウンのトランペットと
クインシー・ジョーンズ六重奏団を背景に
ヘレン・メリルが歌ったもの**など
子ども過ぎて
聴いたこともなかったし
伸びのある
堂々たる歌唱のリンダ・ロンシュタット***も
まだカヴァーしていなかった
昭和時代
高度成長期の頃の
ベトナム戦争の続いていた頃の
慰み物の
サガワミツオ
サガワミツオ
*佐川満男「今は幸せかい」
** Helen Merrill What’s new
***Linda Ronstadt What’s new
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